佐藤文香のネオ歳時記

第21回「タピオカ」「腋毛」【夏】

「ダークマター」「ビットコイン」「線上降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・夏 分類・生活】
腋毛

傍題 腋毛剃る ムダ毛剃る 腋毛見せる 腋毛染める

 春の季語として「鼻毛抜く」を立項したが、夏には「腋毛」を入れておきたい。〈二の腕に腋毛をはさむ夏休〉(平畑静塔)という句を見て以来、「腋毛」は季語でいいのでは? と思っていたので、ここで取り上げることができて感慨深い。暑くなってノースリーブや水着になるときに剃ったり、Tシャツの袖からのぞいたりするのが腋毛である。日本では洋装が主流になって以降、主に女性が腋毛の処理をするようになったようだ。すでに脱毛を終え、通年で腋はつるつるという方もいるかもしれないが、最近では「女性は脱毛せねばならない」という固定観念を壊す意味合いで、自然のままの腋毛の女性も増えた。海外では腋毛をカラフルに染める女性や、その写真をSNSに投稿する女性もいるという。
 私自身の話をすると(誰も興味はないと思うが)、他の部分の毛量に比べれば、腋毛はわりと少ない。一本一本の毛が太いわりに毛穴が少ないらしく、レギュラーメンバーは片腋につき20本くらいだ。ある時期、口まわりの毛(ヒゲ)が濃すぎるという理由で脱毛サロンに通っていたのだが、お店の人がサービスと言って腋にも光を当てながら「腋はきれいですね」と言ってくれたので、たぶん客観的に見ても腋毛の処理はラクな人種なのだろう。カミソリでショショショッとすればほとんど目立たなくなるので、基本的に夏と、事情がある場合以外は放置している。ある人に「腋毛が濃そうな顔」と言われたことがあるが、腋毛ではなく顔毛が濃いのである。逆に、ぱっと見毛深そうに見えない子が、腋毛が濃いのがコンプレックスで脱毛に通っていると教えてくれたこともあった。体毛の濃い部位薄い部位は人それぞれだ。腋毛を見せるのが主流になったとしても、男女関わらず気になる人は処理すればいい。私は見せて魅力的なほど生えていないことがわかったので、これからも剃る派で通すことにしようと思う。
 長袖長ズボンで過ごしていれば、顔と手の甲以外の部分について、毛の濃さを人に知られることはないし、夏でも肌を見せない服装で過ごすことは不可能ではない。毛を見せてでも、または毛を処理してでも、タンクトップになりたい、ワンピースが着たい、そういう開放的な気持ちになることこそ、夏らしさではなかろうか。もしかすると、「毛を見せたい」という気持ちも、夏のものかもしれない。

〈例句〉
腋毛より暗い森なり新宿は  高野ムツオ 『蟲の王』
左手の剃る右腋や腋毛落つ  佐藤文香