佐藤文香のネオ歳時記

第26回「駱駝」「ラジオ」【秋】

「ダークマター」「ビットコイン」「線状降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・秋 分類・生活】
ラジオ

傍題 オールナイトニッポン

 秋といえば夜長、夜長といえばラジオ、という人は、テレビ全盛期に思春期を過ごした我々(1980年代生まれ)より少し上の世代の、40歳以上に多いだろう。なかでもニッポン放送のオールナイトニッポンは世代を問わず人気があり、今年の10月で52年の長寿番組である。ラジオ全体で見ると、テレビの隆盛により下火になったが、テレビのように映像を伴わない分“ながら聴き”ができることもあって、最近ではインターネット回線を利用したリスナーが増えている。定額で別の地域のFM局の放送を聴くこともできるし、1週間さかのぼって聴けるタイムフリー機能も便利だ。
 ラジオといえばリスナーとの双方向のやりとりが醍醐味である。コーナーごとにお題があったり、お悩み相談を受け付けるパーソナリティーがいたりする。学校では意見が言えなくても、ラジオならまわりの目を気にすることなく自分を表現することができるし、もし番組中に投稿が読まれると、学校なんかよりずっと多くの人たちに聴いてもらえる。恥ずかしさもあるものの、人気番組であればあるほど嬉しい。現在はメールやツイッターのハッシュタグでの投稿が主流になってきているが、かつては葉書だったから、常連のネタ投稿者は“ハガキ職人”と呼ばれた。ハガキ職人から放送作家になるなど、ラジオがその後の人生を決定づけた例もある。ラジオネームを考えるだけで楽しかったとも聞く。
 実は私にはラジオを聴く習慣がなく、人生でラジオを聴いた回数より出演した回数の方が多い。大学を卒業して実家に帰って住んでいたとき、地元FM局に勤める友達のお父さんから「サトゥー、ちょっとお願いがあるんやけど」と声をかけられた。土曜の午前の時間帯に急に空いてしまった枠があるとのことで、ピンチヒッターとして番組を持ってほしいと、言われるがままに半年ほど、俳句や言葉に関する番組「ことばの音色」を受け持った。そのあと、年に数回特番枠で放送される「つぶや句575」には7年ほど関わった。 その他、俳句甲子園番組をディレクターと一緒につくったり、最近ではJ-WAVEにゲスト出演させてもらったりした。しゃべるのがうまいかはともかく、ラジオは好きだ。なにしろ顔や服装が映らないのがいい。好きな音楽を流せるのもいい。ブースのガラスを挟んで、スタッフの皆さんが笑ってくれると嬉しい。いい投稿を読めるのが楽しい。そもそも、しゃべるのが好きだ。しゃべる側としても、秋は気持ちいい。
 

〈例句〉
GOOD NIGHT ラジオは今日も今日を綴づ  佐藤文香
手回しラジオ牛タンの厚さについて
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

関連書籍