佐藤文香のネオ歳時記

第34回「粗大ゴミ捨つ」「冬の鬱」【冬】

「ダークマター」「ビットコイン」「線状降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・冬 分類・生活】
冬の鬱

傍題 冬季うつ

 冬は寒い。寒いと血の巡りが悪くなる。血の巡りが悪くなると肩こり(第31回を参照のこと)や腰痛、偏頭痛に見舞われる。体全体の調子がどんよりと悪くなり、つらくなってくる。こないだの打ち合わせはうまくいかなかった、あの仕事もまだできていない、友達からのLINEもそっけないし、昨日送ったメールは一言多かったか……などと考えがどんどん後ろ向きになり、いいことなんてひとつもないような気がする。しかも寒い。寒いと調子が悪い、調子が悪いと気分がダメ……肉体と精神の負のスパイラル。寒さこそ諸悪の根源である。春は「春愁」、秋は「秋思」というそれぞれ物思いにふける系の季語があるが、もっと深刻な冬の鬱々とした気分こそ俳句にすべきではあるまいか。
「冬季うつ病」という季節性情動障害があり、これは日照不足が原因らしい。眠気と過食、気分の落ち込み、無気力が主な症状で、日が短くなる秋から冬にかけて発症する人が多いそうだ。精神科にかかるほどのことはなくても、多かれ少なかれこの時期に季節要因で気持ちが落ち込むことはあるだろう。気持ちの平均値がマイナス側で推移するようになると、いいことがあってもいい気分が続かず、嫌なことがあるとそればかり引きずるようになる。気持ちに隙ができた途端、過去の失敗を引っ張り出してきて悔やんだり、明日を憂い始めたりする。そんな苦しい気持ちでいると、手先足先がどんどん冷たくなってくる。
 本当なら冬眠すべきところを、無理に起きて仕事などしているからこういうことになる。調子が悪い人は、美味しいものを食べ、あたたかいパジャマを着て、春になるまで生き延びることだけを目標にしよう。ちょっと元気がある人は、晴れた休日の午前中に散歩をするとか、手芸など成果物の得られる趣味に没頭する、あるいは失恋する可能性のない相手に恋をする(誰かのファンになる)といいだろう。私は2月、兵庫県宝塚市にある宝塚大劇場へ星組トップスター礼真琴さんを見に行くことを頼りに、この冬を乗り切ろうとしています。

〈例句〉
どら焼にバターを塗つて冬の鬱 佐藤文香
冬季鬱のがれて推しを推しに推す
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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