みなさんは日常生活でどれくらいメモを取っていますか。
メモの効用は、いろいろあります。
メモを取る習慣のある人は、うっかりミスが少ない。
メモを取ることで積極的に物事に関わっていける。
主にメモは「忘れないため」にされていますが、この本では、メモを取ることで考える力を鍛える、そんなメモ力をご紹介したいと思います。
思考を鍛えるための王道。それがメモ力です。「考えよう」となんとなく思っても、思考は深まりません。手を使って、字や図を描くことで思考がみるみるうちに深まります。
クリエイティブな思考力は、メモ力と共にあります。
「No メモ、No アイデア!」
これがこの本の合言葉です。
私は大学四年生の授業で「メモ力を身につけて大学を卒業しよう」という目標を掲げています。なぜならメモ力があるかないかで、その後の人生が大きく変わってしまうと考えているからです。
大学四年生といえば、これから一般企業に就職したり、教師になる人もいます。仕事についたら、メモ力はひじょうに重要になります。人に伝達するときも必要ですし、自分自身に何か気づきがあったときや何かを学んだとき、それを書き留めるためにもメモ力は欠かせないからです。
ふだんからメモ力を鍛えておくのか、おかないのかが何年後、何十年後かに信じられないほどの差になってあらわれるのは間違いありません。
というのも、人はものすごい速度で忘れていき、しかも忘れたということさえも忘れてしまう存在だからです。
ドイツの心理学者、ヘルマン・エビングハウスが発見した忘却曲線というものをご存じでしょうか。被験者に意味のない三つのアルファベットの羅列を覚えさせ、その記憶がどれくらいのスピードで忘れられていくのかをグラフ化したものです。
すると人は二〇分後には四二%、一時間後に五六%、一日後には何と七四%、一週間で七七%、一カ月後に七九%忘れるという結果が出ました。
驚くべきことではありませんか。人は何かを聞いたり、覚えたりしても、一時間後には半分近く、一日二日で記憶のほとんどが抜けてしまうのです。ほぼ聞いたそばから忘れていく、といってもいいわけです。
これは由々しきことです。仕事で聞いたことの七割を覚えていても、三割を忘れてしまう人がいたら、かなり危険人物だとみなされます。でもこの実験によれば、人はみな一日たてば記憶の七割以上は忘れてしまうのです。
仕事というのは基本的にエビングハウスの忘却曲線の現実に抗うことを意味します。では忘れないためにどうするのかというと、もうメモを取るしかありません。
メモを見ると、「さっきはこの話をした」と思い出せます。一見バラバラに見えるものでも、メモを取っておくと文脈がしっかり見えて、バラバラなものがつながっていきます。
ナポレオンも、エジソンも、ダ・ヴィンチも、ある種の天才だった人たちはみなメモ魔だったといわれます。逆に言うと、彼らはメモ魔だったから、才能が発揮できたという見方もできるかもしれません。
みなさんも、『古事記』を空で暗唱した稗田阿礼(ひえだのあれ)のような並はずれた記憶力を持っていれば別ですが、そうでなければ、こまめにメモを取ることをおすすめします。歴史に残る天才たちが、みなメモを取っていたのです。凡人である我々がメモを取らずして、どうしてミスなく仕事をこなすことができるでしょうか。私はメモを取らずに、事にのぞむ人の気が知れません。
この本では簡単なメモの方法から、アイデアや発想を生み出すクリエイティブなメモ力まで順番に見ていこうと思います。この本を読んだみなさんが苦もなくメモが取れるようになり、さらにそのメモ力を活用して、思考を鍛えてデキる人間に成長し、クリエイティブな活躍ができるよう願ってやみません。