世界マヌケ反乱の手引書刊行記念

マヌケ反乱も音楽も国境を越える【前編】
『世界マヌケ反乱の手引書――ふざけた場所の作り方』刊行記念

9月7日、松本哉氏の8年ぶりの新刊 『世界マヌケ反乱の手引書――ふざけた場所の作り方』が刊行された。働きまくって金を使う消費社会中心の生活とは別の、あまりお金を使わず、いろんな面白い人々と交流できるスペースや店を紹介する本で、そういう店の作り方や、世界中にそのような仲間を作る方法まで書いてある。

「webちくま」では、この本の帯の推薦文を担当した、ロックミュージシャンの中川敬さんに松本哉さんと対談していただいた(前半と後半2回にわたってお届けする)。

帯の文章はこうだ。

「万国に散在するバカ共よ、地球大使館を作れ!」

●反原発デモでの出会い

中川 2012年の夏、大阪の脱原発デモに来てたよね? 確かデモの後、公園で話をした。

松本 そうですね。あとはネット上でやりとりがあったぐらいで。

中川 2011年4月10日、松本くんたち「素人の乱」が高円寺で超巨大反原発デモを開催した。あれ、俺はリアルタイムでUstreamで観てたんやけど、かなりの大規模デモになって、その後のシングル・イシュー・デモの先駆けになった。

松本 当時はシングル・イシューとか全然考えてませんでしたけどね(笑)。2011年3月の原発事故後、単純に頭に来てもう絶対にこれを止めなきゃいけないと思って、(4月から9月までほぼ毎月のように)必死に「原発やめろ!!!!!デモ」をやったんです。効果はあったけど、原発はまだ止まってない。政府も「原発は良くない」みたいなことを言いながらうやむやにして、気づいたら再稼働していて。世論もそんな感じだったじゃないですか。最初のうちはみんな反対だったけど、徐々に「まあ大丈夫じゃないか」みたいな意見が出てきて。それでまた元に戻っていくのを見た時、ちょっと考えちゃって。日本は戦争の時に悪いことをしたけど、戦後はうやむやになって結局は元に戻ってる。原発も同じで「反省する立場をとりつつも、結局は元に戻ってるじゃん」と。それを見た時、「何回大きいデモや抗議行動をして世の中を変えたとしても、また同じことが起こるんじゃないか」と思って。それでまた大きいデモをやるんじゃ、みんな疲れちゃうなと思って。

 とはいえ僕らは、抵抗することをやめたつもりは全然ない。あの後、海外の人たちと一緒にやらないと勝てないんじゃないかと思って、海外に行きまくり始めたんですよ。それがけっこうきっかけになって。

中川 台湾の反原発運動にも影響を与えてるし。

松本 そうですね。お互いに影響を与え合っていると思います。あの人たちは本当に鋭くて、高円寺で大きなデモをやった後、すぐに連絡が来た。「お前ら何やってるんだ。面白そうじゃねえか」と。

中川 やっぱり、そういうネットワークが大事やね。国境を越えていく時代。

松本 原発に対する世論の反対が高まった時、政府は韓国と領土問題で喧嘩するとか、そういうことをやり始めたじゃないですか。ちょうどその時、韓国政府も国内問題ですごく困ってたし。あれは、わざとタイミングをそっちに合わせてるんじゃないかと。国内で何か問題が起こったら、外に目をそらそうとする。まんまとそこに掬われちゃう感じがしましたね。

中川 極東アジアの各政府は利害関係が一致してて、仲良し(笑)。

松本 それで、韓国・台湾・中国で自分たちのやりたいことをやってる人たちとつながらなきゃいけないなと思って、そっちにシフトしていきました。

 

●政治家が喧嘩していても、民衆同士はすぐ仲良くなる

中川 松本君の今度の本は、「誰にもできるよ」みたいな感じで書いてるけど、実際にはなかなかできないです。タイトルに「手引書」ってあるけど、「手引書になってないです!」みたいな(笑)。もちろんそれは冗談で、生きていくためのヒントがいっぱい隠されてる本やと思いました。見つめる前に飛んでみようじゃないか~と歌ってる。嘆いてる場合か! 動け! と。書かれてる内容とまったく同じことをする必要は全然ないし。

松本 今のこんな時代だからこそ、何かやらなきゃいけないと思うんです。何にせよ、自分たちのやり方で何かをつくっていかなきゃいけない。そういう時、場所づくりも大事だと思ってて。いろいろとやってる人たちはいっぱいいるんですけど、そういう世界では欧米から輸入された方法がすごく多いんですね。スクワット(占拠して使うスペース)や社会センターのつくり方、あと、デモのやり方自体もそうかもしれないんですけど。

 でも、アジア圏をひたすら回ったら、奴らが独自の超面白いやり方をしていることがわかって。「何これ!」みたいな場所をつくったり、変なやり方で抗議活動をやったり、すごくいろんなアイデアを持ってて。あれを見た時、欧米人だけが偉そうにしてるのもどうかなと思って。上から目線で、「欧米ではこうです」みたいな言い方だけじゃダメだなと思ったんです。実際に行っていろんな人をつなげて、目に見えるようにしたら面白いアイデアが死ぬほど流れてくる。そういうのをやりたいなと思ってて。

中川 アジア圏の交流は普段英語でやるの?

松本 いや、だいたいはカタコトの中国語ですね。あとはインチキな英語。直接行くと、新しい発見がいっぱいあった。それではまっちゃったんですよね。海外の人たちと一緒にやりたいなと。

 

中川 正直言って、俺はこの本を読んでうらやましいなと思った。自分がミュージシャンじゃなかったら、こんなことをやりたいな、と思うようなところがあってね。特に海外との交流の箇所は高揚したな。

松本 最近は台湾や韓国、香港、中国、マレーシアなど、わりと近場に行きますね。ヨーロッパは陸続きということもあって、すごく交流が多いじゃないですか。デモにしても音楽のツアーにしても、簡単に国境を越えられるし。一方でアジア圏ではいまだに国同士が喧嘩ばっかりしてて、民衆同士の理解も進んでいない。でも行ったら行ったでコロッと印象が変わるから、一緒にやりたいなと思って。

 去年、戦争法(安保法)ができた時、日本ですごく大きな反対運動が起きた。その時たまたま中国に行く用事があったんですけど、そういう動きはあまり伝わってなくて。日本では反対してる人もいるのに、中国のニュースでは安倍首相が言っていることばかりが報じられていて。その時、中国の友達の実家に行くことになったんです。でもお父さん、お母さん、その友達とご飯を食べ始めると、ニュースでずっと安倍首相が出てて「そういう法律をつくろうと思います」と言ってて。それってすごく気まずいじゃないですか。

中川 その後、みんなで、安倍政権の安保法について対話したの?

松本 ええ。そのニュースが流れてる時は、向こうも気まずい思いをしていたみたいで。彼らはあえて無視してる感じだったんですけど、こっちは一応「うちの首相があんなことを言ってすみません。帰ってから頑張るんで」みたいなことを言って(笑)。あれは9月でしたけど、10月になると今度は中国のプロパガンダ月間みたいになるんですよ。10月1日は中国の建国記念日ですから。今度は「日本はすげえ悪かった」みたいな感じになって。時代劇でも、日本人が中国人をすげえ殺しまくってる。そこに正義の味方の人民解放軍が出てきて日本人をバーッと殺して、めでたしめでたしみたいな感じで。それはそれで、向こうも気まずいじゃないですか(笑)。だから会話がだんだん少なくなって(笑)、子どもも「お父さん、チャンネル替えたほうがいいんじゃない?」とか言って。チャンネルを替えても同じような番組をやってるんで、やっぱり気まずいんですけど。

 その中国のお父さん、お母さんはそれまで、日本人に会ったことがなかったんですよ。だから向こうも、どう接していいのかわからなかったみたいでした。でもご飯を食べて話してると、「これは政府が言ってることだから」と言ってて。これは中国政府の考え方であって、民衆の考え方とは違うと。僕はそこで「日本もそうですよ」って言って、すごく仲良くなりました。政治ではすごく喧嘩してても、民衆同士はすぐに仲良くなる。それをひたすらやっていきたいという思いがありました。

中川 俺らミュージシャンも、海外でやると、その辺のことを一番感じるね。国家間に問題が横たわっていても、地べたから、巷から繋がっていきたい。結果的にそんな交流の集積が、意外と大きなカウンターになるんじゃないかって。

 

●9月のとんでもないイベント!

松本 最近はそんな感じで海外によく行ってます。各地に面白いお店をやってる人、ライヴハウスをやってる人、インディーズのミュージシャンやアーティストとかいろんな興味深いシーンがあります。国が違っても、やってることって結局同じじゃないですか。若い人たちは自分のやりたいことを実現したいという欲求が強いから、自分の好きなお店を始めたり、好きな音楽をやったりしてる。

 国としての政治的立場は違うけど、個人としてはみんな同じだから、みんなでひとつのイベントをやろうということになって、9月にアジア圏を中心として、各地の面白い奴らを全部東京に集める。今、そういうイベントをやろうとしてます。9月11~17日、東京のいろんなところでアートのイベントやトークショー、アジア各地のドキュメンタリーの上映会やライヴをやります。

NO LIMIT 東京自治区

今、それで結構大忙しで。たぶん、謎の外人が200~300人ぐらい来ると思うんですよ(笑)。基本的に渡航費は出せないけど、泊まるところは全員分用意して、ご飯も最低1日1食は無料で提供する。そういう条件で呼びかけたら、「行きたい」という人がいっぱいいて。

 国際交流する時って、だいたいリーダーの人を呼ぶじゃないですか。そういう人たちはいろいろやってるから、すごく頭が切れて喋れる。そこではためになる話が聞けていい交流になるんですけど、現地に行って面白いのはその人の周辺にいる意味のわからない、マヌケな顔してる人なんですよね(笑)。

中川 あるある。妙に顔が印象的な奴がいたりする(笑)。

松本 飲み方がひどい奴とか、変なことを言いだす奴とか。普通はしっかりした人が来るんだけど、今回はそういう意味のわからない奴らを交流させたいなと。だからひたすら、訳のわからない奴らを呼ぼうと。条件を整えてそういう人たちを日本に呼んで、大混乱の一週間を作ろう。今、そういう作戦を立てています。

中川 今回はスケジュール的に俺は参加できないけど、今後も続けていくでしょ?

松本 たぶんそうですね。大失敗したらどうなるかわからないですけど、今回うまくいけば続けていくと思います。数年前から、各地でいろんなアホな奴らを集めるイベントをやり始めました。去年も世界各地の人たちに同時にやろうと呼びかけて、戦争法(安保法)が成立した日に戦争反対のイベントをやったんですよ 。

アジア反戦大作戦

 東京や台湾、ソウル、香港、マレーシアなどで同時に、自分たちオリジナルの面白いセンスでなんか反戦がテーマのイベントをやろうと。戦争には必ず相手があるから、他の国の人たちと同時にやらないと、イベントの意味が変わってしまう。

中川 この本の話に引き戻すと、未知な文化圏の人間同士の出逢いは、ゆくゆく、最悪なことがらを未然に防ぐことにつながると思うんよね。「□□国は変な国だ」というニュースばっかりしょっちゅう見せつけられると、「□□国には変な人がいっぱいいるんじゃないか」という先入観に繋がってしまう。そこがずっと劣悪な政権による圧政下にあったとしても、俺たち、私たちと同じような市井の人たちがそこで暮らしているんだ、ということが重要。ああいう番組や週刊誌の、上澄みをすくっただけのような記事ばかり見てると、そういう想像力を喚起するところまでなかなか行き着かない。

松本 国と民衆を一緒にしがちですよね。

中川 たとえば太平洋戦争の時、アメリカ人はジャップ個々人に対して相当酷いイメージを抱いていたでしょ。

松本 全員、神風ですもんね。

中川 全員爆弾抱えて突っ込んでくるイメージ。俺らみたいに音楽をやってる人間が、いろんな国に住んでる奴らと出会う。あるいは松本君みたいな人たちが、世界的なスケールで個人交流を積み重ねていく。これは、誰にでもできる、平和への一番の処方箋やね。

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