絶叫委員会

【第114回】スタンプラリー

PR誌「ちくま」4月号より穂村弘さんの連載を掲載します。

 一昨年のこと。JR東日本の駅でスタンプラリーをやっていることに気がついた。どうやらテーマはウルトラマン・シリーズらしい。でも、詳しく知りたいとか参加したいというような熱意は湧かなかった。なんか、やってるなあ、とぼんやり思っただけだ。
 その理由は、最寄り駅に割り振られていた怪獣をよく知らなかったからだ。放浪宇宙人ペガッサ星人? 記憶にないなあ。ウルトラマンとウルトラセブンはリアルタイムで熱心に見ていたはずなのに不思議だ。隣の駅なんかキングジョーだよ。ウルトラセブンを失神させた最強の宇宙ロボット。かっこいい。なんか差があるなあ。
 その翌年つまり去年も、またスタンプラリーをやっていた。しかも前年に続いてウルトラマン・シリーズ。よほど人気があったのか。でも、私の駅の怪獣は、極悪宇宙人テンペラー星人。誰? 知らないよ。テンション上がらないなあ。一方、隣の駅はなんとウルトラマン。主役じゃないか。二年連続でこの差はなんなんだ。
 と思っていたら、今年もまた始まった。ウルトラマンではない。ドラゴンボールだ。そして、我が駅は、おお、ベジータだ! 主人公・孫悟空の永遠のライバル。大物だなあ。とうとうこの日が来たかと思って、しみじみとポスターを眺めてしまう。その時、隣にいた妻が云った。

「ベジータって四十代?」

 な、ば、何を云ってるんだ。馬鹿な。もっと若いに決まってる、と云いかけて言葉に詰まった。ベジータ、何歳なんだろう。あの長い連載期間のうちには作中時間もずいぶん経っているはずだ。ベジータにも子供ができていた。では、スタンプラリーの、このポスターのベジータは、何歳時点の彼なんだろう。迷いながら、妻に訊いてみる。

「どうしてそう思ったの?」
「なんか、そうかなあ、と思って」

 答えになってないよ。その時、閃くものがあった。妻はドラゴンボールをそんなによく知らなかったはずだ。ということは、先の発言は背景の作品世界を踏まえたものではない。つまり、純粋に目の前のポスターを見て浮かんだ考えなのだ。わかったぞ。問題は髪型だ。

「生え際?」
「うん」

 やはり。そういう目で見れば、確かにベジータの頭部は生え際が微妙な人間の男性に似ている。だが、彼はサイヤ人。我々地球人の基準を当てはめるのは間違いなのだ。そのことを妻に告げてみたところ、わかってもらえた。
 でも、念のため、後からインターネットで検索してみた。すると、物語の最終篇におけるベジータの年齢情報が出てきた。五十二歳。ええっ?
                            (ほむら・ひろし 歌人)

PR誌「ちくま」4月号

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