パンケーキフレームワークで変化をとらえる 

第9回 コミュニケーションツールは時代の縮図

昔は、「文書に残る伝達手段」は手紙に限られていましたが、FAXができて、メールになり、SNSのメッセージアプリになり、とどんどん変化していますね。実は、伝達手段だけの変化だけではなく、組織の動き方や仕事の仕方にも大きな影響を及ぼしているのだということです。どういうことでしょうか?

 旧来の技術から新しい技術による移行とそれによるイノベーションが起こったときに共通して起きる旧来のやり方への固執や新しいやり方への変化の例として、今回は「コミュニケーションツール」を取り上げます。 

 変革における4つの領域をベン図型の集合を用いて、「従来できたが新たにできなくなること」(「1」の領域)と旧来できなかったが新しくできるようになること(「3」の領域)に着目して考えるのが本連載のフレームワークでした。
 そこでは、単なる技術や手段の置き換えだけではなく、仕事の手順やプロセスが変わることによって、まったく異なる発想のやり方が生まれてくることでした。つまり、1の領域と3の領域は単に1対1の置き換えが起きるわけではないということです。
 それを今回は、「コミュニケーションツールの置き換え」というテーマで見てみましょう。私たちが会社等の組織で多数の人たちとコミュニケーションをとりながら仕事を進めていくときに、様々なツールを使いますが、それは時代や技術の変遷によって大きく変わってきました。
 まだ電子機器が出る前は、多くの対面のコミュニケーションや手書きの手紙という形で行われていました。電話すら現れる前の話です。ここでは、「形に残る文書のような伝達手段」に焦点を当ててその変遷を見ていきましょう。
 手書きの手紙や文書は、1980年代のワープロの登場によって電子化されていきました。この移行期の初めは、それまで通りに手書きの文書を作ってそれをワープロ専門のオペレータが入力するという、欧米文化でいう「タイプライティング」のような手法が取られました。
 さらにこの状況が続いていくと、手書き→ワープロ入力という完全な二度手間から、最初の手書きをする文書作成者がワープロ操作を覚えることによって直接入力することで、プロセスを一つ省くことが可能になりました。省いたとはいってももともと1ステップだったものが2ステップに増えて、それが再び1ステップにもどっただけなので、特に進歩といえるほどのものではありません。
 ただし、ここでの変化は実は1ステップ目に行われていた「下書き」という行為がなくなったために、「下書き→清書」という2ステップが下書きをしながら同時に清書する(リアルタイムで修正しながら「清書」する)という、いわば1.5ステップに省力化されたことになります。
 これによって、下書き→清書という順次的なプロセスが、下書きをしながら清書をし、また下書きにもどったり清書したりするという「らせん型」のプロセスに変化しました。
 さらに時代は専用ワープロから汎用PCによるワープロソフトという形に変化しますが、まだ実際に出力されるのは「紙の書類」でした。それが電子化されるのが、電子メールの導入です。
 ここでは、「電子で作成→紙に出して送付」というステップが「電子で作成して、そのまま送付」という形で、さらに1ステップの省力化が図れました。
 さらに時代は進んで、最近では電子メールからSNS等のメッセージングアプリへとその主役が移行しつつあります。すでにデジタル化は電子メールで終わっていましたが、ここで起こったのはまたもプロセスの変化でした。
 ここまでの変化でも起こっていたことが、この段階の移行でさらに顕著になります。それは、「順次的プロセスかららせん型プロセスへの転換」です。
 これらの仕事の仕方の変遷は、まさに時代の変遷を反映しています。モノづくり中心の20世紀からデジタルが主役に躍り出た21世紀の仕事のやり方では、「順次的に完成させていく」仕事のやり方から、「完成度が低くても動き出して何度も修正しながら進めていく」というらせん型の仕事のやり方に変化しています。
  このように、コミュニケーションのツールというものも、技術やツールの変化を象徴しているようでありながら、実は大きなレベルで見た組織の動き方や製品開発の仕方といったビジネスのあり方の変化をも、象徴しているものなのです。