パンケーキフレームワークで変化をとらえる 

連載第12回 過去を見る人、未来を見る人

何事も結果が出た後で「ああすればよかったのに」というのは、簡単です。いわゆる「批評家タイプ」という人々ですね。それに対して、「こうなる可能性があるから、思い切ってやってみよう」という人には勇気が必要です。ここに、変化をすることができない心理がありそうですね。

 旧来の技術から新しい技術への移行とそれによるイノベーションが起こったときに、多くの人の変化に対する抵抗がどのような心理から来るのか、フレームワークを用いて解説します。

 

 

 変革における4つの領域をベン図型の集合を用いて、「従来できたが新たにできなくなること」(「1」の領域)と旧来できなかったが新しくできるようになること(「3」の領域)に着目して考えるのが本連載のフレームワークでした。

 今回は、このフレームワークを時間軸に当てはめて考えてみましょう。

 実は1→2→3という流れは、以下のように過去→現在→未来とほぼ置き換えることができます。

 

 

  つまり、様々な変化に対しての対応というのは思考回路が過去に向かっている人と未来に向かっている人の違いであり、それが本フレームワークでいう「1」と「3」の大きさの違いに現れるということです。

 これは連載の前々回でお話しした「あるもの」からの発想と「ないもの」からの発想に通じるものがあります。過去とは「既にある」ものであり、未来とは「まだない」ことであると考えれば、これらが密接に関係していることがわかるでしょう。「あるもの」から考える方が「ないもの」から考えるよりもはるかに容易であり、特に意識していなければ「あるもの」から考える人の方が圧倒的に多数派であることが、前々回のポイントでした。

 これに加えて過去と未来の比較から、「1」を見ると「3」の人とでは思考の傾向が以下のように異なるといえます。

 

 

 過去重視の人とは、普段の生活や仕事上で経験や知識を重視する人であるとも言い換えられます。経験とは当然既に過去に起こったことだし、知識というのもいわば「過去に誰かが出した答えの集大成」ということができます。対して未来志向の人というのは、自らの想像力や創造力を駆使して「ないものから」新しい世界を見ていく人です。

 ここで、過去を見ることと未来を見ることの違いを、さらに考えてみましょう。過去志向の人というのは、暗黙のうちに既に確定したことをベースに発言する傾向があります。つまり、ことが終わってからそれに対してコメントすることが多いのです。

 コロナ禍における状況を考えてみましょう。この2年間、「第〇波」が来るたびに延々と繰り返された議論は「感染を抑え、医療環境を優先させて経済活動を抑制するのか、医療環境はそこそこに経済活動を優先させるか」という「感染抑制か経済活動か」の議論でした。

 よくあった構図は、感染拡大が予想以上に広がったときに「それ見たことか、国や医療関係者は何の準備をしていたのか」という抑制派の意見で、逆に感染が抑制された状態になった状態で飲食店や旅行業界が苦境に陥っている状況を見て、「この程度の感染であればもっと経済活動を許しておけばよかった」という類の発言も見られました。

 これら両方の意見に共通するのは、結果が出た後で「やらなかった方の施策を批判する」ということで、実はこれまさに後出しじゃんけんと一緒で、「後からなら誰でも言える」状況で物申していた人が多かったのではないでしょうか。

 逆に未来を見る人は、常に起こっていない状態で未来に対しての予測をもって具体的な行動を起こします。このようにすることで、当然予測が外れた時には意思決定が裏目に出て大失敗に終わり、上記のような「後出しじゃんけん派」からの猛批判を食らうことになります。

 このように、おおむね過去志向派の人はリスクを冒さずに常に終わってから物申すために、失敗することもなく「賢そうでいる」ことができます。逆に未来志向派の人は起こってもいない状態で未来を語るために大きく外して大恥をかくことがままあり、世の中からバカにされる存在となりがちです。ところが、この予測が当たった場合には、先を読んで行動してこなかった過去志向の人とは圧倒的に違う良い結果を生み出すこともあり得るのです。

 つまり、過去志向は「ローリスクローリターン」であるのに対して、未来志向の人は「ハイリスクハイリターン」になるのです。これは、日常生活でも仕事でもネット上の発言でもすべてがそのような構図になります。

 変化にいちはやく対応するためには未来への仮説を描くことが必要ですが、不確実性が大きいために失敗したら大恥をかくというリスクを伴います。ところがこのリスクそのものが、それがうまくいった場合には先行者利益を独占できるというリターンとなって帰ってくる可能性を生み出すのです。