パンケーキフレームワークで変化をとらえる 

第10回 なぜ変化への抵抗が大きいのか?

新しいやり方に対して、多くの人は必要以上に抵抗してしまうということがあります。それはどんな心理なのでしょうか? 実は「自分を賢く見せたい」という気持ちが働いているから、かもしれません。

 旧来の技術から新しい技術による移行と、それによるイノベーションが起こったときに共通して起きる旧来のやり方への固執や、新しいやり方への変化のメカニズムに関して、今回は多くの人の変化に対する抵抗がどのような心理から来るかを、フレームワークを用いて解説します。

 変革における4つの領域をベン図型の集合を用いて、「従来できたが新たにできなくなること」(「1」の領域)と、旧来できなかったが新しくできるようになること(「3」の領域)に着目して考えるのが本連載のフレームワークでした。

 

 

 このうちポイントになるのは、「1」の領域と「3」の領域の違いです。この違いが変革における様々なメカニズムを生み出します。以前の連載で紹介したこれらの違いを再掲しておきます。

 

 

 これらをまとめると、「従来できたが、できなくなる」ことというのは、既にやっていることができなくなるという点で「いまあること」からの発想であり、誰でもすぐに気づくことができます。例えばテレワークの導入によって、顧客への対面訪問ができなくなるとか、様々な面談やプレゼンテーションにおいて「相手のノンバーバルコミュニケーション」(貧乏ゆすりをしているとか、身振り手振りや姿勢の変化等)からメッセージを読み取ることが明らかにできなくなる、といったことです。

 これに対して「3」の領域というのは、「いまやっていない」ことが新たな技術の導入によって、どのように私たちの生活が変化するかということです。実際にやっていない状況では、相当な想像力を働かせなければ変化を見つけることは難しいでしょう。このような違いを示したのが下図です。

 

 

 このような「1」と「3」の難易度の違い(「3」の方が圧倒的に難しい)が、新しい技術の導入による変化の抵抗となって現れるというわけです。「1」と「3」の難易度の違いについてもう少し個別に見ていきましょう。下表を見て下さい。

 

 

 要は「あるもの」からの発想というのは、誰かが出した目に見えるたたき台に物申すというスタンスで、欠点をあげつらうことになりやすいのです。大きく他者から非難されることがないため、リスクを冒すことなく「賢そうに見せる」ことが可能なのです。

 対して「ないもの」からの発想というのは、白紙の状態で何らかのたたき台を提供するわけですから、多くの人には困難です。しかも完成度が高いとは言えないものを出すことになりますので、「他人から笑われたり、欠点を指摘されたりするような」ことがしばしばあります。

 このように、「あるものから」の発想の方が、「ないものから」の発想よりもはるかに簡単で賢そうに見えるために、大きな変化が起きるような場面においてはたいていの場合、変化に抵抗する側にいた方が多数派で安全な立場を守ることができます。

 変化への抵抗のメカニズムというのは、「あるもの」と「ないもの」の根本的な違いによるものなのです。