パンケーキフレームワークで変化をとらえる 

第11回 あなたは手帳派? スマホ派?

ニュースはネット、本も電子で読みますが、スケジュール管理だけは、いまだに手帳派です。こんな人は多いのではないでしょうか。実際、スケジュール帳のデジタル化はあまり進んでいないようですね。 なぜなのでしょうか? そこには手帳ならではの理由が存在していました。それは何かというと・・・・・・ぜひ、今回の連載をお読みください!

 旧来の技術から新しい技術による移行とそれによるイノベーションが起こったときに共通して起きる旧来のやり方への固執や新しいやり方への変化のメカニズムに関して、今回は多くの人の変化に対する抵抗がどのような心理から来るのか、フレームワークを用いて解説します。

 

 

 変革における4つの領域をベン図型の集合を用いて、「従来できたが新たにできなくなること」(「1」の領域)と旧来できなかったが新しくできるようになること(「3」の領域)に着目して考えるのが本連載のフレームワークでした。

 このフレームワークを用いて今回解説する変化は、スケジュール帳のデジタル化です。

 昨今のスマホの普及やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展に伴って、昔ながらの紙のスケジュール帳はスマホのスケジュール管理アプリへと置き換えられつつあります。新聞からネットニュースへ、紙の書類はPDFの電子ファイルへと置き換えている人の中にもスケジュール帳だけは、いまだに電子化せずに紙の手帳のままという人も意外に多いのではないでしょうか。

 このような電子化をする際にどちらが良いかという判断が、まさに「1」の領域と「3」の領域の大きさの違いによって決まることになるかと思います。つまり「1」>「3」の人、つまり電子化によるメリットよりも紙の手帳でしかできないメリットの方が大きいと判断する人は紙の手帳を使い続け、「1」<「3」と変えることによるメリットの方が大きいと判断する人は、スマホのアプリに移行することになります。

 ここでも前回紹介したような「1」と「3」の違いが、下の図にあてはまることになるでしょう。

 
 

 

 ただし今回取り上げたスケジュール帳の移行について考慮すべきは、通常の紙のデジタル化とは少し違う要素が存在し、そのことが他のデジタル化よりもスケジュール帳のデジタル化が進まない(手帳のメリットがより大きい)大きな要因と考えられるでしょう。

 一般的な紙のデジタル化以外で、スケジュール帳ならではの「1」の領域(紙の手帳ではできるが、アプリではできないこと)と、「3」の領域(紙の手帳ではできなかったが、アプリでできるようになること)のうち、主要と思われるものを列挙してみましょう。

 まず「1」の領域ですが、これは誰もが経験していて、多くの人が感じていることではないでしょうか。

・月単位等での一覧性が高い

・スケジュールをチェックする必要性が生じた瞬間から予定を確認するまでの時間が短い(これは慣れによって変化しますが、手帳に慣れた人を想定)

・(電子書籍と紙の本の違いと同様)紙の手帳ならではの手触りやカバーのデザイン等、 物理的なものであることによる所有の喜びがある

・シールを貼る等の装飾が可能で楽しめる

 もちろんこれ以外にも、紙ならではの楽しみ方が人によっていくらでも膨らませられることそのものが物理的ツールの良さかも知れませんが、概ねこんなところといえるでしょう。

 続いて「3」の領域、つまり電子データを用いたアプリならではのメリットですが、これは単なる紙の電子化という要素以外には、デジタルデータであることが大きいでしょう。「使って初めてわかる」ことも多いため、使い込むにしたがってそのメリットに気づいて数が増えていきます。例えば、

・入力が定期的な予定等、膨大になるときには「コピペ」が容易にできる

・急いでいる時でも「殴り書きがひどくて後で読めない」事態には陥りにくい

・手帳では宿命となっている「全てを期間単位で区切って考える」ことから解放される

・過去の予定を何年分でも簡単に検索できる

・年や月、あるいは週をまたいだ予定も把握しやすい(紙の予定表では、どうしても「区切り」が出てきてしまい、それをまたいだ範囲で考えることが難しい)
といったことが容易に挙げられます。またクラウドシステムを用いていることから、

・デバイス(スマホやタブレット、PC)を持ち歩いていない、あるいはどこかに忘れた状態でも、誰かのデバイスを借りればクラウドにアクセスが可能である

 というシステム上のメリットもあります。

 さらにこのようなスケジュール管理上のメリットに加え、デジタルデータであるがゆえの本格活用は、むしろこれからということになるかも知れません。それはスケジュールに反映され、集積されたデータをいかに活用するかという、「ビッグデータ+AI」という観点です。

 現在私たちがスマホやPCを使って行った検索や買い物の履歴は、すべからく「ビッグデータ」として蓄積され、それがカスタマイズされた広告のような形で日々活用されていることは、スマホを使っている人であれば誰でもご存じのことと思います。

 これと同じように、過去の予定表のデータを膨大に蓄積していけば、AIの方から(あるはずなのにない予定を)リマインドしてくれたり、予定の取り方から業務の効率化の提案をしてくれたりといった「未来に向けての提案」までを、スケジュールアプリからしてくれるという日もそう遠くはないでしょう。

 このような応用機能がアップし、さらに蓄積されたデータが年を追うごとに充実してくるとすれば、アナログ的な「もの」の価値を感じている人も、「3」のメリットが「1」を凌駕して、使う人が増えていくと予想されます。

このように、様々なデジタル化は省力化や効率化という観点を超えると、ビッグデータの蓄積とそれを利用したAIによって、これまでのマニュアル作業を置き換えるだけでなく多種多様な付加価値が提供されていくことになるでしょう。