危険なことをしたがる10代
Qなぜ10代は危険な行為をしたり、リスクを取りすぎたりしてしまうのでしょうか?
リスクを取ったり、わざわざ危険なことをしてしまったりという10代の特徴は、皆さんの中にも心当たりのある人がいるかもしれません。なぜなのでしょうか。このことは10代に起きる脳の発達に関係しています。まず、10代の脳の全般的な生物学的な変化について簡単に触れておきましょう。
小学生のときに比べて、10代は心と脳に急激な変化が起こります。これは、アンドロゲンやエストロゲンのような性ホルモンの濃度が身体内で急激に高まるためです。詳細な生物学的メカニズムについては触れませんが、視床下部や下垂体という脳の領域の働きによって、性ホルモンが分泌され脳を含む様々な部位に送られます。
脳の中で、感情とかかわると考えられる領域に性ホルモンが作用するようです。特に、欲求にかかわる領域への影響が大きいようです。このような領域はある対象が自分にとっての報酬(ご褒美)になるときに働く脳領域であることから、報酬系回路と呼ばれます。
感情の実行機能は、単純化すると、この報酬系脳領域と、報酬系領域の働きを調整する外側前頭前野を中心とした脳領域の2つの領域のバランスで成り立っています。
たとえば、皆さんが大好物のもの(たとえばケーキ)を目にしたとき、報酬系回路が活動します。ケーキを得たいという欲求が生じているわけです。ただ、なんらかの理由でそのケーキをがまんしなければならないとき、報酬系回路の活動を調整するために外側前頭前野が活動します。つまり、ブレーキのような役割を果たしているのです。
一方、ある対象が皆さんにとってどうでもいいものであった場合、報酬系回路はあまり活動しません。そのため、外側前頭前野の働きは報酬系回路の調整をする必要がないのです。
小学生の間は、報酬系回路の働きと外側前頭前野の働きのバランスがよいのですが、10代にはこのバランスが崩れます。性ホルモンの影響で報酬系回路の活動が強くなりすぎるため、外側前頭前野の働きでは十分に調整しきれないということです。その結果として、衝動的な行動をとってしまうのです。
ちなみに、思考の実行機能に関しては、外側前頭前野と後部頭頂領域という脳の部位が中心的な役割を果たすことが知られています。思考の実行機能には報酬系回路がかかわってこないので、10代においても低下しないということです。
このように、皆さんが、欲求に抵抗できなかったり、がまんが難しかったりするのはある程度は仕方がないことなのです。まずこのことを知ってほしいのです。
Q10代の全員が衝動的ではない気がします。個人差があるのではないですか?
10代で実行機能をうまく働かせるのは難しいのですが、確かに個人差はあります。衝動的な人もいれば、そうではない人もいます。ここで大事なのは、10代で衝動的であるかどうかは、その人の将来にかかわってくる可能性があることです。ニュージーランドの研究からの報告です。
この研究では、ダニーデンという町にある年に生まれたすべての赤ちゃん1000名程度を対象に、その赤ちゃんの生涯を追跡する研究を実施しました。子どものころのどのような要因がその人が大人になったときの収入、職業、健康に影響を与えるかを検証するためです。
この研究では、参加者の方々に3年おきくらいに調査をしました。子どものころはともかく、大人になるとニュージーランド国内はもちろん、世界各国に移住してしまっているので、調査に継続して参加してもらうのは大変です。それでも、33歳時点においても、当初の参加者の90%程度が調査に参加しています。この点においてこの調査は高く評価されています。
この調査の結果、子どものころに実行機能が高い人は、低い人よりも33歳になった時の年収が高く、社会的地位が高い職業に就く可能性が高く、健康状態が良いことが示されています。これは、IQや家庭の経済状態など、年収や社会的地位に影響を与える可能性がある他の要因の影響を統計的に排除しても、実行機能の影響は見られるということです。
この調査は子どものときの実行機能の重要性を示しているのですが、実は、10代の重要性も示しています。これまで述べてきたように、10代は、様々な誘惑に弱くなってしまいます。お酒やタバコ、ドラッグなどに手を出してしまう人も少なくありません。
この調査では、10代にお酒やタバコに手を出した人と手を出さなかった人がその後どうなるかを比べています。その結果、10代にお酒やタバコに手を出さなかった人は、出した人よりも、年収が高く、健康状態が良いことが示されています。
皆さんにも、お酒やタバコなど、様々な誘惑があるでしょう。ですが、誘惑に負けやすくなる10代に、誘惑に打ち勝てるか、負けてしまうかによって、将来が影響を受けてしまいます。皆さんにとって踏ん張りどころです。頑張りましょう。
Q私たちがリスクを取りやすいのは、悪いことなのですか?
ここまで10代は誘惑に負けやすかったり、リスクを取りやすかったりすることを述べてきましたが、一方で筆者としては、10代が不安定な時期だということだけを言いたいわけではありません。
10代がリスクを取りやすい時期であることは確かですが、見方を変えると、中学生や高校生は、リスクを取ることができるともいえるのです。日本人の大人は、リスクを取ることを好みません。たとえば、資産形成場面では、貯蓄か投資かという選択を与えられると、貯蓄をする日本人がほとんどです。ですが、本当に資産形成をするためには、適度なリスクを取ることが重要だとされています。もちろん、過度なリスクを取ると破滅の道がまっているわけですが、ある程度のリスクを取らないと、お金を稼ぐことはできないのも事実です。
このような大人と比べて、10代はリスクをとることができ、それによって新しい道を開く可能性があります。10代は、独立のための準備の時期です。小学生とは違い、進路から友達や恋人の選択まで、自分で様々な意思決定をしなければなりません。
(中略)
そういう意味において、変わりゆく社会の中で、次世代を担う中学生や高校生が適度なリスクを取ることは大事なことなのです。ただ、過度なリスクを取ってしまうと危険だというのもまた事実です。たとえば、避妊をしない性行為などはリスクが高いだけの行為です。ドラッグなどの薬物やタバコ、お酒に対して手を出す青年も少なくないですが、このような行為もリスクが高いだけの行為です。SNSで道徳的に問題のある行動が拡散されると、一生を棒に振ることになるかもしれません。
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