ちくまプリマー新書

サッカー世界ランクが上昇している国の共通点は「天然資源の豊富さ」?!
『ランキングマップ世界地理』より「はじめに」を公開!

人口の多い国ランキング、石油産出量の多い国ランキング、いろいろな世界のランキングを1枚の地図にすると新しい相関関係が見えてきます。120以上の世界地図をおさめた『ランキングマップ世界地理』より「はじめに」を公開します。

サッカーの世界ランキングを地図にする

 皆さんは、「世界ランキング」というと何を思い浮かべますか? ランキングを地図にすると、どんなことが見えてくるのでしょうか?

 図表0-1は、FIFA(国際サッカー連盟)の男子A代表の世界ランキングです。同じ国の中に複数の代表を出す地域(イギリスなど)があったり、自治領などの非独立地域も代表を出すため、世界の独立国の数(日本が承認している国は196カ国)を上回る211のナショナルチームがあります。

 上位32カ国(本戦出場枠の総数)の分布を見ると、ヨーロッパ(19カ国)と南米(5カ国)に集まっているのがわかります。2022年大会(カタール)でのヨーロッパの出場枠は13、南米は4・5でした。本大会に行ける実力ある国でも、大陸別予選突破が難しい激戦区です(2026年大会では拡大予定)。

図表0-1 国際サッカー連盟(FIFA)男子世界ランキング(2023 年4 月)公式サイト(https://www.fi fa.com/fi fa-world-ranking/men?dateId=id13974)より作成

 101位以下の国々は、小国(自治領を含む)や発展途上国に幅広く分布しています。本戦は夢のまた夢でも、定期的に国際Aマッチを戦う「おらが国(邦)の代表」を応援し、ランキングに一喜一憂する人々を想像してみるのも楽しいです。ちなみに、この時の最下位(第211位)は、ヨーロッパの小国サンマリノ共和国、第210位はカリブ海のイギリス領アンギラ諸島でした。

 地図化に使うランキングは、最新のものでなくてもかまいません。むしろ過去のランキングと比較することで、新たな気づきを得られることがあります。図表0-2、0-3は、現在のランキングのポイント集計のルールが適応された2018年7月と現在のFIFA世界ランキングの順位の変動をみた地図です。

 順位を大きく伸ばした国は、中東からアフリカ諸国に集まっています。共通するのは天然資源(石油や天然ガス)が豊富に採れることです。1位の赤道ギニアは1992年に天然ガス田が、1995年に海底油田の採掘が始まり、2017年にOPECに加盟しました。2 022年のワールドカップに開催国枠で初出場したカタールは、有力な外国人選手の帰化も話題になりました。

図表0-2 FIFA 世界ランキングが上昇した国(2018~23 年)
出典:図表0-1 に同じ
図表0-3 FIFA 世界ランキングが下降した国(2018~23 年)
出典:図表0-1 に同じ

 2022年大会でアフリカ勢初の4位に入賞したモロッコ、隣国のアルジェリアもこの5 年間で大きくランキングを伸ばしています。モロッコは準決勝で旧宗主国フランスと対戦しましたが、モロッコのA代表にはフランスのプロリーグで活躍する選手も多くいます。旧植民地と宗主国のつながりが、代表の強化にどうつながっているのか、考えてみたいテーマです。

順位が大きく下がった国

  逆にこの5年間で順位を大きく下げた国の分布を見てみると、ヨーロッパに集まっていることがわかります(図表0-3)。10位以上順位を下げた国は44カ国ありましたが、うち21カ国がヨーロッパでした。その多くが東欧諸国と小国です。経済のグローバル化に伴う西ヨーロッパ企業の進出と再移転による不況が、各クラブや代表強化の財政を圧迫しているのかもしれません。

 順位の下落幅の1位と2位には、北大西洋の2つの島国(地域)が並んでいます。アイスランドの人口は約37万人、フェロー諸島(デンマークの自治領)は、人口約5・3万人(新潟県の佐渡島の人口が約5・2万人です)しかいません。でも、両国(地域)とも、ヨーロッパの国際Aマッチを転戦し、確かな結果を残しています。アイスランドは2018年(ロシア大会)のヨーロッパ予選を勝ち抜いて初出場を果たしました。フェロー諸島では1942年 創設の「プレミアリーグ」(10チーム)を頂点とする地域リーグがあります。フェロー諸島の世界ランキングは、人口2・7億人のインドネシア(149位)よりも上です。

本書の構成

 本書では、世界のあらゆる「ランキング」を地図化して、地図から読み取れることや、その背景について考えます。

 学校で使う地図帳の巻末には統計資料が載っています。また、教科書や資料集には、統計を基に作られたカラフルな地図がたくさん載っています。授業ではそれらの資料を使って何が読み取れるのか、なぜそのような分布になるのかを考えます。ただ、使われる統計は基本的に最新であることが前提であり、上位の国を探したり、覚えることはあっても、古い統計を地図にしてみたり、下位の国に注目することはあまりありません。また、それぞれの資料には必ず出典が明記されていますが、インターネット等を介して発行元にアクセスして「元のデータ」を見ることはないと思います。

 地図の作図には、フリーのGISソフト「MANDARA」を使いました。地理の授業で操作を体験したことがあるかもしれません。

 できる限り多くの資料を見てもらおうということで、地図と統計に紙面をあてましたので、かなり分厚い本になってしまいましたが(編集部の皆様、ありがとうございます)、どこから開いてもらっても楽しく読める構成になっています。パラパラッとめくってもらって面白そうな地図とランキングがあったら手を止めて、まずは地図とランキングをじっくり眺めてみてください。本書は何よりも地図がメイン、素材の持ち味が命です。

 読者の皆さんが「世界の今はこうなっているのか!」「面白いな。自分も地図を描いてみたいな」と思ってもらえれば本望です。世界のデータの「海の幸」を、頭から尻尾まで存分に堪能してください。



『ランキングマップ世界地理』

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