冷やかな頭と熱した舌

第16回 
さわや、新店出すってよ 【前編】

進駸堂中久喜店の魅力

 たとえば、進駸堂さんの文庫のフェア台で展開されていた「一月生まれの作家コーナー」と題したミニフェア。正直これを見たときには唸った。
 一月生まれの作家の顔写真誕生日とともにパネルに記され、その横に代表作が並べられている。いつもと違う切り口で、名作文庫を目に触れされることで、常連のお客さんの購買意欲を掻き立て、同時に、商圏外のお客さんに対しては、作家の写真を切り抜いてパネルにするという手間を惜しまない自店を、お客さんの知っている近場の店と比較させてどちらが上位であるかを瞬時に悟らせる。
普段の顔」と「外面」とを、たった一つのフェアで演出することは並大抵のことではない。

 「一月生まれの作家コーナー」 パネルとともに代表作が並び、丁寧に作られた売場が展開されている

 それらは考えられた比率の棚割からも察せられた。そして、その棚の中に収まっている選書もずば抜けたセンスなのである。センスがいいと言うと「上から目線で偉そうに」と思われるかもしれないが、実際は「えっ? この出版社、こんな本も出版してたの!?」という驚きの方が勝ったうえでの発言であることをご了承いただきたい。大きな売り場面積に「なんでも詰め込みました」という某チェーン店の棚よりも100倍は魅力的だ。さらには、本に詳しい人の意思がこれでもかと感じられる「まえのめり」の選書でもない。あえて「一歩後ろに下がった」という距離感が心地よい棚なのである。

   「一歩後ろに下がった」選書の距離感が心地よい棚
筆者も大絶賛のアメコミの売場

 象徴的なのはアメコミの棚だろう。
 コミック売り場入口の一等地に、多すぎるのではないかと思われるアメコミのアメアラレ。だが、その熱量には思わず足を止めてしまう力強さがある。思惑通りに足を止めると、目につきやすいところに『アメコミ映画40年戦記』(洋泉社)をはじめとした、アメコミを理解してもらうためのハウツー本が置かれているのだ。その適切なセンスあふれる選書もさることながら、これだけディープな世界を棚で表現するほどアメコミを知悉しているにもかかわらず、敷居を高く設定せずに「お前も来いよ、こっちの世界へ」と手を差し伸べられた気分になった。
 このアメコミの棚前に立って、自分は入門者の気持ちになって棚を作っているかと深く自省したことは言うまでもない。店内に掲げてある「また来たくなる発見のある店」のコンセプトに偽りなしである。

   アメコミがアメアラレと並びながらも入門者の気持ちを忘れない売場展開

進駸堂の魅力を新店に

進駸堂中久喜本店の店内マップ

 店内マップ上方の壁面にある「人文」「ビジネス」と見ていき、マップには記されていない「学参」との境目にある「郷土書」の棚で、田口店長と落ち合う。「すごいですね」「魅力的な店だよね」と感想を漏らし合うと、田口店長はすでに2冊の本を抱えていた。
 郷土書の棚に目を向けると、「小山評定」に関する本が何点か集められていた。僕の中で結びついていなかったが、小山市は家康が天下を取る第一歩となった「小山評定」の舞台であったのだ。なんと! 天下分け目の決戦は、やはりまだ終わっていなかったらしい。後の時代を切り開く契機となった地に、田口〈家康〉とともに来られたこと。「家臣である不肖・松本は幸せですぞ」と心のなかでひとりごちた。気分はすっかり〈黒田長政〉である。はたして今回の新店を機に、さわや書店は天下を獲ることができるだろうか。

 鈴木店長ともお話をさせていただき、進駸堂中久喜本店さんを後にした。
 興を殺ぐといけないので、他にもある盛りだくさんの魅力はあえて書かない。まだ行ったことのないという本好きの方は、「絶対に訪れるべき店」だと太鼓判をおす。さわや書店上盛岡店が目指した〈郊外店〉の理想の形が進駸堂さんにはあった。いただいたアイデアを新店舗に盛り込むことは必定である。さわや書店の新店舗が開店した後、もし似かよった部分があるとしたら〈オリジナルは進駸堂さんだ〉ということを先にお断りしておく。文芸の棚の工夫や来店した人を飽きさせない要所の仕掛けなど、新店舗完成時に来店した方に気に入っていただける部分があったとしたら、ぜひとも元祖である進駸堂さんに足をお運びいただきたい。


 その後、在来線を乗り継いで水道橋に到着したのは16時。打ち合わせを2件こなしてから、新旧の東北担当をしてくれた出版社の営業のお歴々に、出店説明会に名を借りた宴会を開いていただき、この日の夜は更けていった。解散は深夜2時。あと二日、果して体力はもつのだろうか……。【後編へ続く】

  進駸堂中久喜本店の店内① 店長賞としておススメ小説を展開している
  進駸堂中久喜本店の店内② 映像化のコーナー

【進駸堂中久喜本店】
住所:栃木県小山市中久喜1345-6
アクセス方法:JR宇都宮線小山駅より車で15分小山東ニュータウン東側カンセキ隣
電話:0285-30-1115
FAX:0285-30-1933
E-mail:nakakuki@shinshindo.net
ホームページ:http://shinshindo.net
進駸堂ツイッターでイベントやおススメなども紹介されています→https://twitter.com/shinshin_do

また、今回発表しましたさわや書店の新規店の詳細につきましては順次、さわや書店のツイッター、ホームページなどでお知らせさせていただきます。

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