ドキュメント感染症利権

検証・コロナvs政治 
海堂尊×山岡淳一郎(前編)

――特集対談

2020年4月、「緊急事態」が宣言される中リアルタイムで執筆され、急ぎ出版された2冊の本。無為無策の政治風景と医療現場の緊迫を克明に描き出した小説『コロナ黙示録』海堂尊著と、感染症という科学的事象に右往左往する国の有り様を追い医療を蝕む闇を衝いたノンフィクション『ドキュメント感染症利権』山岡淳一郎著だ。両作品の著者が縦横無尽に問う「この国はなぜコロナと闘えないのか」――

▼科学をトップに据えた国になぜ学ばない?

海堂    そんな世の中の雰囲気の中、山岡さんのこの本はすごく画期的で重要な本だと思うんです。
 僕も医者なんで、中で語られているエピソードのうち7割くらいは断片的に知ってるんですね。でも、それらを総合されて見るってことはこれまでありませんでした。断片としてのピースを一つ一つ嵌めていって、統合して一つのストーリーとして見せるというのが必要なんだな、と。そうか、そういうことだったのかとものすごく納得しましたもん。
 僕も『コロナ黙示録』を書くために相当調べたんですが、この本、書く前に読みたかったな、って(笑)。特に、中国の鍾南山先生、かっこいいですよね。ああいう中国で獅子奮迅でやってるような話、日本のメディアでは全然出ませんでした。
(*編集部注 鍾南山=中国の医師で、2003年SARS、2019-20年新型コロナウイルスの中国国内流行対策に際し、政府の専門家集団の指揮を執った。後者では、ウイルスがヒトからヒトへ移ることを断定したうえで大胆不敵な感染症対策を敢行した。『ドキュメント感染症利権』第1章参照)

山岡    「財新」という中国の独立系メディアの記事が東洋経済オンラインで随時翻訳されて読めましたので、それを追っていました。向こうで書かれたレポートで、現場の医師たちへの情報隠蔽があったり、対応に当たっていた眼科医が亡くなったり、武漢の中がすごい動いているな、と。当時の武漢の動きは本書の第1章にまとめた通りです。

海堂    僕が『コロナ黙示録』執筆中にもしこの本に書かれていることを知っていたら、書き方が全然変わったのに、なんで俺にゲラを送らなかったんだって、今になって編集者に無茶苦茶なこと言ってます(笑)。

山岡    鍾医師の一件は、何か強烈な、象徴的なエピソードですよね。

海堂    日本のメディアでは、一夜にして隔離病棟を築いたこと、中国が巨大な突貫工事をやった、さすが全体主義国家みたいな伝え方しかしていなかったと思うんです。でもじつは、中国のトップも頭が上がらない医学の大御所の言うとおりにしたんだっていう、大事なことが伝えられていません。まさに、日本にない部分ですよ。

山岡    まずは科学に立脚して感染症対策をやるんだと割り切ったら、鍾医師をリーダーにして、徹底的にやらせたという出来事なんですよね。

海堂    だって、全権委任ですから。鍾医師があの瞬間、主席より偉くなってるわけです。

山岡    日本はこの姿勢、このやり方に何も学んでいないですよね。何かこう、日本の官邸にも厚労省にも、中国や韓国、台湾などを見下す浅ましい根性みたいなのが透けて見えますね。東アジア全体で比べてみると、このコロナでの人口当たりの死者数は、日本は今挙げた国よりかなり多いというのに。

海堂    本に書いてありましたね。あれも衝撃でした。

山岡    「日本モデル」とかって胸張って言っていましたが、比べる相手が違うだろうと言いたい。

海堂    日本モデルって言いながら出てくるのは、黒塗りの公文書ですから(笑)。

山岡    大事なところは隠すのが「日本モデル」っていう。

海堂    黒塗りでこれをまねしろって言われたって、どうまねするのかって思いますよね。本当に支離滅裂なんです。日本のやってることは、論文にできないことばかりです。論文にできないから、オーソドックスな手法になり得ません。ということは、何をやっても責任の取りようもないし、ひどい話です。

山岡    論文になっている世界のスタンダードと日本のやり方がことごとく違ってきているという話を、パブリックヘルス、臨床疫学の専門家から聞いたことがあります。日本はそういうスタンダードを、いつから見下すようになってしまったのか。

海堂    それは見下してるんじゃなくて、ついていけないからネグレクトしているんです。中韓に対してもそうですが、もうITとかいろんな分野で完全に抜かれてることを自覚しているから、目を逸らしてるんですよ。

山岡    見ないようにしているだけ?

海堂    見下すには上から見なきゃだめですが、見たらもう上にいるんだから(笑)、見上げるしかないのです。それで目を背けて、昔はよかった、と言っているだけです。

山岡    なるほど、そうかもしれない。

海堂    何度も言いますが、中国の対応で鍾南山さんのエピソードなんて、現地の記者は簡単にアクセスできるはずですよ。それが全く報じられないわけでしょ。もうメディアだって完全に思考停止プラスネグレクトですよ。

2020年12月9日更新

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海堂 尊(かいどう たける)

海堂 尊

1961年千葉県生まれ。外科医・病理医としての経験を生かした医療現場のリアリティあふれる描写で現実社会に起こっている問題を衝くアクチュアルなフィクション作品を発表し続けている。デビュー作『チーム・バチスタの栄光』(宝島社)をはじめ、「桜宮サーガ」と呼ばれる同シリーズは累計1千万部を超え、映像化作品多数。Ai(オートプシー・イメージング=死亡時画像診断)の概念提唱者で関連著作に『死因不明社会2018』(講談社)がある。近刊書に『コロナ黙示録』『コロナ狂騒録』(ともに宝島社)、『奏鳴曲 北里と鷗外』(文藝春秋)、『北里柴三郎 よみがえる天才7』(ちくまプリマー新書)。

山岡 淳一郎(やまおか じゅんいちろう)

山岡 淳一郎

1959年愛媛県生まれ。ノンフィクション作家。「人と時代」「21世紀の公と私」を共通テーマに近現代史、政治、医療、建築など分野を越えて旺盛に執筆。一般社団法人デモクラシータイムス同人。著書は『原発と権力』『長生きしても報われない社会』(ちくま新書)、『ゴッドドクター 徳田虎雄』(小学館文庫)、『気骨 経営者土光敏夫の闘い』『国民皆保険が危ない』(共に平凡社)、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(共に草思社)、『放射能を背負って 南相馬市長桜井勝延と市民の選択』(朝日新聞出版)、『医療のこと、もっと知ってほしい』(岩波ジュニア新書)ほか多数。

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