ドキュメント感染症利権

検証・コロナvs政治 
海堂尊×山岡淳一郎(前編)

――特集対談

2020年4月、「緊急事態」が宣言される中リアルタイムで執筆され、急ぎ出版された2冊の本。無為無策の政治風景と医療現場の緊迫を克明に描き出した小説『コロナ黙示録』海堂尊著と、感染症という科学的事象に右往左往する国の有り様を追い医療を蝕む闇を衝いたノンフィクション『ドキュメント感染症利権』山岡淳一郎著だ。両作品の著者が縦横無尽に問う「この国はなぜコロナと闘えないのか」――

▼PCRの反省は、2009年にできたのに

海堂    じつは僕は2月に、南米のチリに取材で出かけていました。だから、日本でダイヤモンド・プリンセス号が大変なことになっているという話も、ネット記事を断片的に見るくらいでした。あの時何が起こったのかは、帰国して後から探ったんです。

山岡    チリにいらしたのは、なぜ? 

海堂    今「ポーラースター・シリーズ」というキューバ革命を題材にした連作に取り組んでいて、4作目が出たところなんですが(『フィデル出陣 ポーラースター』文藝春秋)、その続きを書いていて、その取材でね。

山岡    それはまた面白いですね。

海堂    ええ、面白くて、本当に2月のチリは極楽でしたが、今思うともう二度と戻れない場所になりました。

山岡    その時期のチリは、まだコロナは出ていなかったですか。

海堂    ちらほら出ていました。だから入国のとき「日本から来たのか」って聞かれて、いつもより時間がかかったけれども、それだけでした。南米はまだあの頃は、ほとんど出ていませんでした。

山岡    世界でのウイルスの拡がり方を見ると、最初武漢で発生して、ヨーロッパ、北イタリアからヨーロッパへ拡がり、あとアメリカ、ニューヨークの辺りから入っていく、それにブラジル経由で拡がっていくものもあった。非常に多様な拡がり方をしていて、その時期のチリから考えると、今の南米があんなにひどい感染状況になるっていうのは想像もできなかったでしょう。

海堂    向こうから日本を見て、本当に対岸の火事みたいでしたからね。

山岡    だとすると、日本のクルーズ船の情報なんていうのは、向こうの人には届いていなかった? 

海堂    今、日本にチリの情報がぽつんぽつんと入るみたいにしか情報は入ってきません。だから日本のネットメディアを見て、刻々と変わる状況を知りたかったんですが、そもそも向こうのネット環境があんまりよくないからすぐ通信制限みたいになってしまって、Yahoo!ニュースの見出し見るくらいしかできませんでした。
 で、日本に戻ってきて、3月に徐々にひどくなって、PCRの問題とかも、ああ、またやっとるなと思って見てました。2009年の鳥インフルエンザのときと全く同じ轍踏んどるな、と。僕が『ナニワ・モンスター』(新潮文庫)に書いたことです。そしたら今年、評論家の津田大介さんがこれは予言の書かというふうに取り上げてくれたんですが、彼はじつはこの文庫版の解説を書いてくれた人でして。僕も忘れているような、当時の政治のこととか調べてくれてね。

山岡    やっぱり2009年の状況というのも、一つの知識的な基盤にしておかないと、今の状況ってわからないんですよね。

海堂    みんなきれいに忘れちゃってるんです。僕は当時『とくダネ!』という番組にコメンテーターで毎週出ていて、この問題ももちろん取り上げられていて、キャスターから「これ大変な病気でしょう」って振られて、「いや、あんま大したことないと思います」とか答えたら、何か急にそっぽ向かれたみたいになってあまり振られなくなったこともありました(笑)。

山岡    テレビも自分たちの考える意見の方向に持って行きたい、みたいな。

海堂    しかもその後ろには多分政府のあれがある、という感じですね。

山岡    今回、露骨にその辺が出てきています。

海堂    安倍長期政権でずっと続いてきた中でしたから、誰がどう見てもオリンピックをやりたいからコロナ対策もごまかしたのが丸見え、ということですね(笑)。

山岡    もう金魚鉢のキンギョみたいに、ね。
 話は戻りますが、海堂さんは2009年にこの『ナニワ・モンスター』を書かれた段階でPCRの問題なんか全部把握されていたわけですね。

海堂    あのときだって、感染が最初に確認された神戸の高校生をメディアが異常にヒートアップして取り上げていましたが、東京にも感染者が出たらうやむやにして、おかしなことをしていました。行政のほうも、空港での水際対策と言って成田だけ監視して、他はやってないとか(笑)、おかしいでしょ。まるで子どもだけが王様は裸だ、って指摘するような喩え話と同じで、何で皆それが見えないのかなって思っていたんです。

山岡    2009年の新型インフルのあとに、感染症の専門家たちが政府の対応について総括した報告書を見ましたが、今回と似たようなものでした。今回は10月に新型コロナ対応・民間臨時調査会のレポートが出て、いみじくも、「泥縄でやったけど結果オーライ」と記されていましたが、同様の結論が読み取れるものでした。

 

〔後編へ続く〕

(対談収録日 2020年11月14日)

海堂尊【書評】
医学と感染症の狭間に生まれた「利権」を追う必読の書
コロナで後手を打つ無教養政権への痛撃
 @Kodansha Bluebacks 
 

2020年12月9日更新

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海堂 尊(かいどう たける)

海堂 尊

1961年千葉県生まれ。外科医・病理医としての経験を生かした医療現場のリアリティあふれる描写で現実社会に起こっている問題を衝くアクチュアルなフィクション作品を発表し続けている。デビュー作『チーム・バチスタの栄光』(宝島社)をはじめ、「桜宮サーガ」と呼ばれる同シリーズは累計1千万部を超え、映像化作品多数。Ai(オートプシー・イメージング=死亡時画像診断)の概念提唱者で関連著作に『死因不明社会2018』(講談社)がある。近刊書に『コロナ黙示録』『コロナ狂騒録』(ともに宝島社)、『奏鳴曲 北里と鷗外』(文藝春秋)、『北里柴三郎 よみがえる天才7』(ちくまプリマー新書)。

山岡 淳一郎(やまおか じゅんいちろう)

山岡 淳一郎

1959年愛媛県生まれ。ノンフィクション作家。「人と時代」「21世紀の公と私」を共通テーマに近現代史、政治、医療、建築など分野を越えて旺盛に執筆。一般社団法人デモクラシータイムス同人。著書は『原発と権力』『長生きしても報われない社会』(ちくま新書)、『ゴッドドクター 徳田虎雄』(小学館文庫)、『気骨 経営者土光敏夫の闘い』『国民皆保険が危ない』(共に平凡社)、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(共に草思社)、『放射能を背負って 南相馬市長桜井勝延と市民の選択』(朝日新聞出版)、『医療のこと、もっと知ってほしい』(岩波ジュニア新書)ほか多数。

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