「自転車が秒速10メートルで、そこから光を前向きに飛ばしたから、光の秒速に10メートル足して……2億9979万2458……じゃなくて68メートルだ」
数馬の近くまで来た宗士郎は、あのひとなつこい笑みを浮かべた。
「ブー! 残念。不正解」
「え?」
「じゃあ、後ろ向きに飛ばした光の速度は?」
「それは、光の速度から自転車の速度を引いて、秒速2億9979万2448メートル……でしょ?」
「ブー! それも不正解」
「こっちも?」
「正解は、どっちも、2億9979万2458メートルぴったりだよ」
「なんで?」
「なんでって言われても、それが正解なんだから、しょうがないだろ」
「しょうがないって……」
宗士郎は、砂利道に自転車を停め、ハンドルにライトを戻した。
「自転車が秒速50メートルで走ろうが、100メートルで走ろうが、関係ない。走ってる自転車から前に飛ばした光の速さは、自転車に乗ってるおまえが測っても、道端に立ってるおまえが測っても、秒速2億9979万2458メートルなんだ。それに、後ろに飛ばした光の速さも、自転車に乗って測っても、道端に立って測っても、やっぱり光速ぴったりなんだ」
「石の速さは変わったじゃないか」
「石でも、ボールでも、ロケットでも、前向きに飛ばして、おまえが道端に立って測ったら、自転車の速度を足さなきゃいけないし、後ろ向きに飛ばしたら引かなきゃいけない……厳密に言えば、実は正しいとは言えないんだけど……」
「正しくないの?」
「いや、まあ、普段の生活で使うくらいの速さなら、ほとんど問題ないんだが、でも、ものすごく速く動くものに対しては、同じ考え方では通用しないんだ」
「通用しない?」