親は自分の不安をあなたのせいにする
受験直前のこの時期に三者面談をしていると、「うちの子がもう心配で、心配で……」と嘆きながら、わざわざ自己評価を下げるような声掛けをして子どもの足を引っ張る親を目の当たりにすることがあり、ほんとに困ったなぁと思います。
それにしても、親って自分のことでもないのに、何がそんなに心配なんでしょうね? あなた自身よりも親の方がずっと、あなたのことを心配しているあの感じって、いったい何なんでしょうか。
親があなたを心配して不安な表情を浮かべているとき、あなたは「心配をかけて悪いなぁ」と思うかもしれません。でも、実はそんなとき、親はあなたのことが心配なんじゃなくて、自分のことが心配なんです。自分が不安ならそう言えばいいのに、「あなたのことが心配」と言いながら、自分の不安をあなたのせいにしてるんです。
子どもの前で虚勢を張るのは大人にとって大切な仕事です。(大人らしくふるまう大人たちに守られて、あなたは成長してきました。)だからあなたの目には、大人は自分よりちゃんと地に足をつけた頼りがいのある存在として映っているかもしれません。でも、実のところはあなたの想像以上に大人は頼りない存在で、自信がないから不安になるし、それを隠したいから自分の不安をあなたのせいにしてしまうのです。
親は良かれと気を回すことであなたを阻害する
それにしても、心配する親というのは子どもにとって重い存在です。だって、あなたを心配することを通して、親はあなたに依存しているんですから。もし、子どもが思春期に突入してもなお「この子は私がいないとダメ」なんて思っている親がいるとしたら、そんな親は、むしろ自分の方が子どもに寄りかかってしまっていることに気づくべきです。相手により深く依存しているのは、支えられている方ではなく、支えているという自負を持っている方というのは、ありがちな真実です。
親は良かれと思って子どものやることなすことに手を出し口をはさみます。これって、子どもに無事でいてほしいと願う愛情表現である一方で、自分の心の不安を一刻も早く解消して安心したいという、親の身勝手さの現れでもあります。
子どもの不完全さが許せない親の反応は、大人になっても自分の不完全さが認められない未熟さの現れなのですが、そういう親に限って、良かれと思って先回りして、子どもが失敗をしないようにお膳立てをしてしまいます。そして、このような親の余計なお世話こそが、子どもの成熟を阻害してしまうんです。
親子だけでなく、大人どうしの関係でも言えることですが、良かれと思って気を回しすぎる人は、良かれと思うままに他人をコントロールする傾向があります。気を回すことを通して、相手の偶然的な未来をあらかじめ奪ってしまうのです。
他人を尊重するというのは、へたに自分の不安を他人にばら撒(ま)かないということです。それなのに、良かれと思って積極的にばら撒く人が多いことがいまの時代の醜(みにく)さの根幹にあります。(感染症に対する人々の不安をあおる報道や、人々の不安が瞬(またた)く間にRT(リツイート)で広がるツイッターなどのSNSを思い出していただければわかると思います。)
これと同じ意味で、自分の不安をまき散らすことで子どもを落ち着かなくさせる親、そしてその不安のために、子どもの「いま」の現実を飛び越えて自分が良かれと思うことを押しつける親というのは、罪が重いですよ。親は子どもに何ができるって、彼らの人生の邪魔さえしなければ及第点(きゅうだいてん)なのですが、それがなかなか難しいようです。
親の期待にこたえようとすることで、あなたは自分独特の生き方を失う
子どもの人生の障害になる親には、実は共通する特徴があります。それは、いつでも「親の期待にこたえなければ」と子どもに考えさせてしまう傾向があることです。そういう気遣いをさせてしまう親というのがいちばん厄介なのです。
言うまでもなく、親と子どもは別の人格ですから、子どもが常に親の期待にこたえながら生き続けることはできません。それに、万が一できたとしても、子どもは自分自身の人生を生きていないわけですから、そんなことを考えさせる親は、子どもをがんじがらめにしばりつけて人生を狂わせる危険な存在です。
でも、これを読んでいる人の中には、子どもが親の期待を裏切るのはよくない、親がせっかく私のためにいろいろがんばってくれてるのにかわいそうだし……と思う人もいるのではないですか? そんなあなたの何とも言いがたい戸惑(とまど)った表情が、目に浮かぶようです。
あなたはすっかり危(あや)ういところにいますよ。あなたは親を失望させることが怖いんですよね? 失望させることは、親のやさしさを裏切ることだから怖いのですか? 失望させないことが親の愛情を繋(つな)ぎとめることだと信じているから怖いのですか? それとも、親がいつも(特に金銭面で)支えてくれているから、できるだけ期待にこたえなければならないと思っているのですか?
いずれにしても、あなたはもう崖(がけ)っぷちですよ。あなたはすでに自分独特の生き方を手放していて、しかもそれに気づかずにいるのですから。