佐藤文香のネオ歳時記

第2回「栞」「カレー」【秋】

お待ちかね!(かどうかはわからぬが)「佐藤文香のネオ歳時記」がついにスタート! 「ダークマター」「ビットコイン」「線上降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・秋 分類・生活(飲食)】
カレー
傍題 カレーライス インドカレー タイカレー グリーンカレー ビーフカレー シーフードカレー キーマカレー

 立秋は8月初旬。この日をピークに、だんだんと暑さが引いてくる。とはいえ1ヶ月くらいはまだまだ暑い。これが「残暑」〈秋〉だ。「朝顔」「西瓜」などは、この残暑の時期、初秋の季語。だから「カレー」も、初秋でいこう。あの辛さ、あの味わいは、残暑にこそふさわしい。
 カレーの具になっている野菜はそれぞれ季語で、オーソドックスなものでいえば「玉葱」〈夏〉、「じゃがいも(馬鈴薯)」〈秋〉、「人参」〈冬〉、と、てんでバラバラだが、「トマト」〈夏〉や「茄子」〈夏〉を入れると夏優勢になって、それは「夏野菜カレー」と呼ばれる。ここでまた季語の話、「虹」という季語はそのままだと〈夏〉。ただし「春の虹」「秋の虹」「冬の虹」といえば、それぞれの季節の季語になる。だから「カレー」は〈秋〉として、「夏野菜カレー」は〈夏〉、そういう判断でどうだろうか。
 ただし一括りにカレーと言っても、インドカレーもあればタイカレーも、フレンチのカレーもあれば北海道のスープカレーもあり、売られているルーだけでもバーモンドカレー、熟カレー、ジャワカレーと、種類を言い出したらキリがない。具の話になるともっと複雑で、昨日の煮物にルーを突っ込んでカレーに仕立てたもの(大根入り)から、苫小牧のホッキ貝カレーまである(美味しゅうございました)。もしかすると、その「なんでもいける」かんじが、残暑の気分に似合っているのかもしれない。
 余談だが、料理が得意な男の子と付き合っていたときのこと。腹が減ったとわめく私に、彼は10分でカレーをつくってくれた。ピーマンとひき肉をさっと炒めて、水とカレールーを入れて少し煮るだけ。そのへんにあったパンとともに食べた気がする。あれも、夏休み(夏の季語ですが時期的には半分以上秋なんです)の終わりだったなぁ。あ、「ピーマン」は、「唐辛子」の仲間で秋の季語です。

〈例句〉
雨やみに街のカレーを所望する  佐藤文香
愛欲や恐竜色のサグカレー