【季節・秋 分類・生活(ファッション)】
ローファー
ローファーとは、紐がなく甲の部分が平たい革靴全般のことだと思っていたが、どうも商標名らしく、モカシン(アメリカ先住民の靴)を模したカジュアルな浅靴、だそうだ。銀杏の葉に似合うという理由で、晩秋のネオ季語とする。
いつもどおり私ごとだが、昔から足が大きい。中学一年生のとき、背は146cmしかなかったのに足は25cmだったので、今に見てろ、170cmになってやると思いながらバレー部に入ったが、結局身長は163cmまでしか伸びず、その代わり足がさらにでかくなってしまった。レディースの靴は、LLが24.5cm~25cmくらいで、私はこれだと入らない。現在履いているスニーカーは、メンズの26cmである。今でこそ、大きいサイズのレディースの靴が多くの店で買えるようになったが、15年前は専門店か取り寄せでしか購入できなかったし、かわいいデザインのものなど皆無だった。
そんな私が高校デビューでつまづいたのが、他ならぬローファーである。校則では確か、黒かそれに類する色のスニーカーか革靴と決まっていたと思うが、イケてない系の子はみんなスニーカー、かわいい子はみんなローファーだった。さらにおしゃれな子は焦茶のローファー。私はメンズの黒のスニーカーを履いて入学したのだが、あのときほど、足が25cm以下であることを羨ましいと思ったことはない。悔しいので調べると取り寄せができることがわかって、それ以来25.5cmのローファーを頼んで履くようになった。ただ、でかいローファーには2つ難点があった。ひとつは、私の足は縦に長く横幅は細いため、左右がぶかぶかになってしまうこと。紐靴だと紐をきつく縛ればどうにかなるのだが、ローファーではそうはいかない。もうひとつは、単純にかわいくないこと。ローファーを履けばかわいくなれると思ったのに、なんと、でかいローファーはかわいくないのである。ローファーの原義は「なまけ者」だそうだが、なるほどスリッパっぽい。これでは話が違うと思った。それでも、頑なにローファーで高校生活を送ることにし、雨の日もローファー、走るのもローファー。すぐ色が剥がれるので黒の油性ペンで塗ったり、靴底を接着剤で貼り付けたりもした。でも、かわいい子のローファーはいつもぴかぴかだった気がする。かわいさというのは心のありようで、心のありようは靴の美しさに反映されるのかもしれない。
大人になってからも、ローファーへの執着は捨てきれず、本気で足に合うローファーを探し、ついに革ではなくエナメルのものを購入。自分にとってはかなり高額だったが、この際だからと木製のシューキーパーも買って、大事に履いている。最近気になっているのは、男性のローファー。もちろんレディースよりでかいわけだが、男性が履くとそれはそれでかわいい。
〈例句〉
ローファーは今この樹の根元を映してゐる 佐藤文香
友達に聞く君のことローファー捨つ