佐藤文香のネオ歳時記

第19回「クールビズ」「ケチャップ」【夏】

「ダークマター」「ビットコイン」「線上降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・夏 分類・生活(ファッション)】
クールビズ
傍題 ノーネクタイ

 クールビズとは、2005年から政府が提唱する、冷房時の室温28℃を目安に夏を快適に過ごすライフスタイル(環境省報道発表資料参照)。5月1日〜9月30日のあいだ、ジャケットを着ない・ノーネクタイ・半袖などの方法で涼しく過ごし、冷房の温度を下げすぎないことで、省電力化を図る。寒冷地では6月開始だったり、沖縄ではかりゆしウェア着用だったりと、ラフな施策だ。スーツを着ない職業の人には、服装についてはあまり関係ないかもしれないが、冷え性の人にとって25℃以下に設定された冷房は寒すぎるため、室温を下げすぎないでもらえる点、かなりありがたい。
 私が人生で一番頻繁にスーツを着ていたのは、大学を卒業した年。勤め始めた会社を6月で辞めてしまい、時給の高さに目が眩んで塾講師になったころだ。着ていく服を考えないでいいという意味ではラクだった。いいスーツを買うお金はなかったので、教員の母親からお下がりをもらって着ていた。週3回仕事に行く以外はへらへら過ごしていたが、小学生から見れば、スーツを着ている人はみんな、ちゃんとした大人に見えただろう。その塾は講師管理がしっかりしていて、各自の事前準備だけでなく、授業前に別のコマを担当する講師と読み合わせをするなど、めんどくさいことこの上なかった。結局、またしても半年で辞めることにして、最後にこっそり俳句を教えた。当時小学4年生だった彼らは、現在21歳。もしかすると、どこぞの塾で講師をしているかもしれない。かつての私のように、夏でもスーツを着ているだろうか。それとも、クールビズスタイルだろうか。
 暑がりで汗っかきであっても「ネクタイが好き」というタイプの人もいる。うちの夫である。先日夫の服をこんまり(『人生がときめく片づけの魔法』の著者・近藤麻理恵さんによる片付け方を実践)し、ネクタイもだいぶ捨てたのだが、今数えたらまだ30本以上あった。クールビズに対して、夏でもかちっとした格好をしている様子を、たとえば「夏のスーツ」「夏のネクタイ」などと季語っぽく呼ぶのもオツかもしれない(季語に対して保守的な方々からは怒られるかもしれない)。ネクタイが好きな人は、夏でもネクタイをしてほしい。つまりは、みなそれぞれ自分にとって快適な格好で夏を過ごせればよい。

〈例句〉
クールビズの課長かはゆしたぶん我も 佐藤文香
水道道路を自転車でノーネクタイで
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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