【季節・冬 分類・生活】
仕事納まらず
傍題 年末進行
「仕事納」という季語は、「御用納」の傍題として、冬の歳時記に載っている。平井照敏編『新歳時記』(河出文庫)の「御用納」の解説はこうである。
官公庁、会社などでは、十二月二十八日まで仕事をして、一月三日まで休暇となる。御用納の日には、残務整理をして、机をかたづけ、年末の挨拶をかわして、半日で帰るのが普通である。もっとも商社などでは、大晦日まで仕事が忙しいこともあり、一概にはいえない。
これでおわかりいただけると思うが、「御用納」はお役所の慣習を季語化したものであるということだ。一般企業についても、年末年始をお休みにするために「仕事納」がある。そして「仕事始」があり、これも新年の季語となっている。『新歳時記』の初版発行は1989年、ちょうど30年前。ここ30年で職種は多様化しており、「一概にはいえない」幅が随分広がった。年末年始が稼ぎどき、というサービス業の皆さんはもとより、休み中暇を持て余す人向けのコンテンツのアップに勤しむweb業界などにおいても、たとえ記事自体は予約投稿できるにしても、もろもろの調整や関連ツイートなどを含めれば結局は仕事気分のまま、という方が多いのではなかろうか。そんな皆さんに実感を持って用いてほしいネオ季語こそ「仕事納まらず」である。収拾がつかないという意味では「収まらず」の方が漢字的には合いそうだが、「仕事納」が可能な人に対抗する意味で「納まらず」とした。
じっくり考えて中長期スパンでものをつくるタイプのクリエイティブ業にも、「仕事納まらず」な方は少なくない。先日、忘年会という口実でお仕事仲間のブックデザイナーさんをご飯に誘おうとしたが、12月は忙しすぎて「当分忘年できなさそう……」とのことだった。高浜虚子の代表句に〈去年今年貫く棒の如きもの〉があるが、今年の彼にとってこの「棒の如きもの」は、残念ながら束となった仕事である。働き方改革で、年末年始は休みましょうとは言うものの、なかなかそうも言っていられない職種も多いだろう。
さらに、仕事納のために「年末進行」というものがある。他の業界にもあるだろうが、文筆業方面からは、正月休みの嬉しさをかき消して余りある、呪いのような言葉だという声も聞く。いつもは毎月後半に〆切がくるような原稿について、年末年始印刷所が休みになることを見越して〆切が早めに設定されるため、落とさぬようにギアチェンジして書き上げねばならない、というわけだ。師走感が強い。
「ネオ歳時記」はweb連載なので年末進行の影響はない。ありがたいことである。この文章をご覧の方は、すでに年末進行を乗り切って、明日からの休暇について悠々と考えてらっしゃるか、あるいは現在ちょうど本当のデッドラインと戦っているか、あるいは本日までに入稿のはずが間に合わず、「仕事納まらず」となってしまったか。いずれにせよ、よいお年を。
〈例句〉
ビビンバ丼のナムルや仕事納まらず 佐藤文香
年末進行ユリノキの見える席
