佐藤文香のネオ歳時記

第23回「昼飲み」「夏フェス」【夏】

「ダークマター」「ビットコイン」「線上降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・夏 分類・生活(飲食)】
昼飲み
傍題 昼酒 昼の酒

 ビール、冷酒、焼酎、梅酒、これらすべて夏の季語なので、さらに「昼飲み」を立項するまでもないと思われるかもしれない。また、飲む人は季節にかかわらず昼から飲んでいる、という指摘もあるだろう。が、夏の昼に飲む酒は格別である。外食ランチに足してもいいし、自宅で飲むのもまたよい。昼飲みで大事なのは解放感だ。30℃以上になる日は本当なら全日夏休みにすべきなので、せめて食事どきくらいは夏休みを味わった方がよい。
 1番のオススメは冷え冷えの白ワイン。少し緑がかったミネラル感のあるソーヴィニオン・ブランあたりがオススメで、開けたときにちょっとしゅわっとするようなものだと最高である。家で飲むなら1本1000円しないくらいの、スクリューキャップのもので十分だ。キャロットラペやチキンソテーとともにいただきたい。マスカットが好きならモスカートもよいだろう。
 日本酒なら酸味が強めの山廃などに、氷を浮かべて飲む。あるいは、加水で軽めに仕上げてある夏純吟をしっかり冷やしていただく。ああ、鮨が食べたくなってきた。鮨も夏の季語だ。
 ビールでは、東南アジアのすっきり系の小瓶が夏らしい。ベトナムの333(バーバーバー)なんかを、フォーと一緒にダラダラ、というのが好ましい。ベルギーのヒューガルデン・ホワイトをごくごく飲んでから、あたたかいポトフを食べたのも美味しかった。
 まだ明るい夕方から飲むのも夏の特権である。テラス席で飲み始めるなら、断然スパークリングワイン。カヴァであればシャンパンほど気取らず飲める。はやめに甘美な気持ちになりたければ、赤の泡・ランブルスコから攻めるのもオツである。夕方のビールはペールエール。ビアバーであれば、果物を思わせる華やかな味わいの生が日替わりで用意されているのでそこからいきたい。もちろん普通にサッポロやキリンなど日本の有名なビールもいいのだけど、それらはなんとなく夜のものという気がする。プリン体の観点からビールを避けるなら、白州のハイボールにレモンをしっかり入れて、上質な気持ちで日暮を待つのはどうだろうか。
 昼酒推奨派といえども、午後もちゃんと仕事ができるよう、グラス1杯程度を推奨している。休みの日なら2杯〜3杯飲んでもいいが、それ以上飲むとお昼寝コースとなり気づくと夜、また飲み始めてしまっていつの間にか一日が終わるので注意したい。また、喉が渇いているときに酒を飲むといとも簡単に脱水症状になるので、必ず一緒に水を飲むことを心がけてほしい。

〈例句〉
昼飲みにちよつくらバスで出掛けるなり  佐藤文香
風と風つるむ真昼を白ワイン
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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