佐藤文香のネオ歳時記

第24回「ズッキーニ」「ゲリラ豪雨」【秋】

「ダークマター」「ビットコイン」「線状降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・秋 分類・植物】
ズッキーニ

 ズッキーニを初めて食べたのはいつだったか。どこかの店のラタトゥユに入っていたものだろうか。小さいころ実家でズッキーニを食べたおぼえはない。が、今では夏になるとどこのスーパーでも売っている。うちの近所だと、大きいもので1本98円が最安値。洗って切って焼くだけで食べられるので重宝している。よく朝食の際に目玉焼きと同時に焼いている。
 ズッキーニが出始める6月頃は、宮崎県や茨城県で生産されるものが多いようだが、都内在住兼業主婦の感覚だと7月が旬。8月頭現在は長野県や群馬県、北日本で採れるものが出回っている。俳句におけるウリ科の植物の季節内訳は、瓜・胡瓜・メロンなどが夏の季語、西瓜・南瓜・苦瓜などは秋の季語となっており、ぶっちゃけ実感としては全部夏のようにも思えるが、ズッキーニはカボチャ属であること(イタリア語でカボチャはzucca)、スーパーでいつも近くに並んでいる玉蜀黍が秋の季語であることから、秋に分類してみた。
 ズッキーニという野菜を自宅で食べるものとして認識して買うようになってから、その美味しさにはいつも驚かされる。油との相性がいいのでうちでは火を通すが、生で薄切りにしてサラダにする手もある。肉だけでなく白身魚やイカなど、魚介類の付け合わせとしてソテーするのもよく、そのときはやはり白ワインがほしい。くり抜いてボートにして具を詰めて焼いたり、チーズピカタにしたりするとちょっとしたメインにもなる。書いていて思ったが、たぶんサルシッチャ(イタリアのハーブソーセージ)と炒めるのが最高だろう。
 実はネオ歳時記の連載が始まってすぐ、飲食関係だけにすればよかったと後悔した。やはり興味のあるものについて書くのが一番だからだ。『新歳時記』(河出書房新社)の編者の平井照敏の主観が光る解説が大好きで、そんなふうに書ければよかったと思ったのだ。たとえば「柿」について「きわめてうまい」「日本の果物の中でもっともうまいともいわれる」、「熟柿」について「適当に熟れた柿はすこぶるうまい。鳥がつつきに来る」というように。今回はそれに習って、ズッキーニについて書くとこんなかんじだろうか。

“適当に切って油で焼いたズッキーニは、噛むたびにジューシーで、すこぶるうまい。油は、オリーブオイルでもバターでもよい。肉と一緒に焼くと、肉以上にうまくなるときがある。黄色と緑があるが、どちらもうまい。ズッキーニは花も食べられる。花には、チーズなどを詰めてフリットにする。”
 

〈例句〉
テーブルは木でできてゐてズッキーニ  佐藤文香
ふとましきズッキーニ手に吸ひつきぬ
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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