【季節・秋 分類・行事】
コミックマーケット
傍題 夏コミ コミケ コミケット コミケ雲
コミックマーケットは8月と12月に行われるので、単に「コミックマーケット」だけだとどちらの季節かわからない。が、来場者から立ち上る水蒸気の集合で「コミケ雲」ができるとまで言われる、8月のコミケを季語としたい。夏コミと言っていただいてもいいが、立秋を過ぎているという理由で秋に分類させていただく。大丈夫、夏蜜柑が春の季語だったりするので(歳時記によります)、そんなに変なことではない。また、年に二回あるのに片方がそのまま季語になっている、というのも、ほかにもある。代表的なのは「彼岸」で、単に彼岸といえば春のこと。秋のお彼岸は「秋彼岸」という。よって冬のコミケを詠む場合は「冬コミ」として使っていただければと思う。
さて、私は、自分が興味のあることについてめちゃくちゃ詳しい人のことが好きなので、友人は俳句オタクばっかりだ。彼らは俳句以外にも何らかの得意分野があり、純文学マニアだったり古い漫画を集めていたりする。アニオタもいる。私はといえば、俳句を書く以外、何かにハマるということがなかった。せいぜい恋愛くらいか。というわけで、コミックマーケットにも縁がなかった(中学1年生のころ、コンビニでカラーコピーしてちょっとエロいイラスト便箋を自作していたが、あれは何かが作りたかったのであって、絵がうまかったわけでも、何かの漫画が好きだったわけではなかった。俳句に出会って本当によかった)。
短歌や俳句ではその短さゆえに、有名な作品をふまえて作品をつくるという本歌取り的な手法は非常に重要であるし、そうでなくても今の時代創作に携わる人間はある程度教養が必要だ。日本においてはすでに、漫画やアニメ、ゲームも教養となりつつあり、百人一首を諳んじられるだけでなくポケモンも151匹くらいは言えた方がよく、蕪村だけでなく庵野秀明も知っていないと話にならない。現代俳句でいえば、外山一機の作品にはRPG「ドラゴンクエスト」をふまえた「捜龍譚(どらごんくえすと)」という連作がある。しかし、私はドラクエをプレイしたことがないという点で、読者としての教養に欠けていた。このままでは、今後読めない作品が増える一方だ。
そこで、この春学期、大学で「日本先端文化論」と「漫画文化論」を受講した。高野文子の短編漫画を読み漁り、ガンダムやマクロスを動画で初めて見て、萌えイラストの海外絵師について調べてレポートを書いた。授業が終わって、夏休み。「同人市場は一度見ておいた方がいい」とおっしゃるM先生自身、3日目に出店されるという情報を得て、人生初めて、友人とコミックマーケットへ。電車内から見えた温度計表示が「39℃」のこの日、冷凍したペットボトルのお茶と、サングラス・日傘、一番涼しげなワンピースで向かった。残暑オブ残暑。
昼過ぎに国際展示場駅に着いたので、もう帰る人たちとすれ違った。朝から並んで人気の同人誌をゲットしたのだろう、みな大きい荷物を背負い、首からタオルを下げ、Tシャツは肩から胸まで汗で色が変わっている。会場に入ると、日差しがない分多少はマシだが、空調がちゃんと効いているとは思えず、酸素が薄い気がした。出店者の数にも驚くが、なにより、これだけの人たちが、何か1冊以上お目当てがあって買いに来ているという状況がすごい。文学フリマとは全く規模が違う。コスプレの方々、「どサブカル!」と書かれたブース、戦利品をすぐに読み始める人の群、ガムテープで乳首を隠すのがお決まりになっているエロ系の大看板などなど、見どころだらけ。それでも、M先生によれば「この会場(西展示棟)はあまりコミケらしくない」んだそうで、東京オリンピックのために使えなくなった東展示棟の広い景色を一度見ておけばよかったと思った。
次は冬コミにも行ってみたい。コスプレも人生に一度くらいはしてみたい。そのために、何かのオタクになってみたい。
〈例句〉
心あてに買はばや買はむ初コミケ 佐藤文香
コミケ雲またファンですと言はず去りぬ