2月13日、自称「ミスター入管」はこの日、衆議院第二会館にいた。立憲民主党の勉強会「外国人受け入れ制度及び多文化共生社会のあり方に関する検討PT(プロジェクトチーム)」にゲスト講師として呼ばれたのだ。かつて左遷を幾度も経験しながら、日本各地の入国管理局長を歴任し、30代で在日韓国・朝鮮人の特別永住許可制度をつくった男。(後述するが、これが「在日特権」だと排外主義集団に煽られ、坂中は攻撃の標的にされる。)
坂中は司会者に紹介されて着席するや否や、フルスロットルで話し出した。
まずは昨年12月8日に成立した改正入管法の施行を前に、その問題点について。ちょうど数日前、移民先進国カナダのトロント大学に招かれて講演をしてきたばかりである。肩は温まっている。法務省で知られた長広舌のミスター入管を誰も止めることはできない。
「明治の開国は西洋に開いただけ。その間、外国人を正当に受け入れたことはない。大きな意味で言えば日本はようやく国を開いたんですよ。これは移民国家の第一歩ですよ」
「安倍首相はそれ(移民国家化)を止めようとすることで逆に歴史に名前を残すかもしれない」
「坂中はどんな人間として残るか。政治家や国民に嫌われて残るか」
「移民には居住・移転、職業選択の自由を認めないと」
「一口で言えば、日本人が住まないところに外国人は住まないですよ」
「農村よりも都市部ですよ」
改正入管法を移民国家への道だと前向きに捉えつつ、はっきりその姿勢を示さない安倍首相を批判する。
ひととおり、その理念を展開したあとで現状に触れた。
「(改正入管法について)受け入れの対象として在留資格を14業種に増やしたのは、第一歩。今回、大きいのは製造業を入れたことですよ」と評価する一方で、「技能実習制度は詐欺だ。3年で帰すのは移民政策じゃない。まさに奴隷制度ですよ。こんなのは即廃止ですよ」と切って捨てた。
坂中にとって、移民の定義は永住許可を取ったすべての人々である。この席で、坂中は移民を労働力として捉える向きに釘を刺すようなワードを放った。ヨーロッパで移民政策のシンポジウムに参加した体験を語ったときである。
「感銘を受けたのはそのときの言葉の使い方です。同じ移民を指す言葉でも、移住者の立場で言う“migrant(マイグラント)”と、入国管理する側の言う、国内に入ってくる者としての“immigrant(イミグラント)”ではスタンスが異なる。この会議のときに主語として登場したのは、マイグラントが7割、イミグラントが3割、レイバー(labor)すなわち労働者は0」
移民に対して、日本も取り締まる側からの視点で入国者(=イミグラント)と見るのではなく、意思を持って移動する人間(=マイグラント)であると捉え、リスペクトをして議論の前提に立たねばならない。ましてや単に労働力と見下すのはもってのほか、というのが坂中の持論である。
言うまでもなく、「在日特権」は存在しない。排外主義集団が攻撃する存在しない「特権」の一つに数えられているのが、坂中が法務省時代に立案した在日韓国・朝鮮人の特別永住許可制度だ。日本に住んでいながら日本国籍を失った人々の法的地位安定を図る、いわば日本自身が生んだマイナスをゼロに近づけようとしたこの制度は、どのようなバックグラウンドから生まれたのか。