佐藤文香のネオ歳時記

第36回「ペーパードライバー講習」「ヘアサロン」【春】

「ダークマター」「ビットコイン」「線状降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・春 分類・生活】
ヘアサロン

「昨日ヘアサロンに行ってきた」と言うと、ちょっと気取っている気がするが、ネオ季語仕様でヘアサロンと言わせていただきたい。ヘアサロンは軽い語感が春っぽいので、春の季語でいいと思う。美容院と言うと少し古いかんじ、美容室が一般的で、さらにお洒落っぽくなるとヘアサロンだろうか。カット、パーマ、カラーだけでなく、ヘアセットや着物の着付け、まつ毛エクステなどをやるところもあり、床屋や理容室、1000円カットとは違う。
 私は1ヶ月半に1度の頻度でヘアサロンに通っており、客のなかでは常連に入る。美容師のヒガさんは大学時代からの担当で、13年来の付き合いである。第一句集出版後、故・金子兜太さん・故・小沢昭一さんと鼎談する機会があったがそのときもヘアをお願いしたし、東京での結婚パーティーのときもこのヘアサロンから会場にタクシーで直行した。私は髪型や髪の色にすぐ飽きるので、そのたびにアシンメトリーやツーブロック、ハイライトなど様々な提案をしてもらってやってきた。ここ最近は前髪の内側に白髪が増えてきたので、髪全体を明るめにし、白髪に近い部分をブリーチしていたが、ついに限界が来たので前回から白髪染めを解禁。さらに今回は全体を真っ黒に染めた。不自然な真っ黒はむしろかっこいいのでは? と考えたのだ。髪の量が多く毛の1本1本が太いため、黒くするとどうしても頭が重くなるが、ヒガさんのテクニックで、なかなかさっぱりした髪型になった。現在ショートカットからショートボブにかたちを変えつつあり、次回3月末には、白髪部分の根元だけ染め直し縮毛矯正をかけ、普段は使わないいいトリートメントを施してもらう予定だ。アメリカであまりヘアサロンに行かなくてもいいように、計画的にやってもらっている。「そんなこと言いつつドレッド(編むなどして束にし、縄のようになったヘアスタイル)になって帰ってきたらどうしよう」と笑われた。
 人生の次のステップにさしかかろうとするとき、人はイメチェンを試みる。私は中学を卒業してすぐストレートに、高校を卒業してすぐ茶髪にした。いずれも成功とは言い難いが、数時間で変身が叶うヘアサロンは、我々に勇気を与えてくれる。ネオ歳時記の連載を終えた2020年春は、心機一転・真っ黒な髪でアメリカへ。1年半のあいだ、ありがとうございました。カリフォルニアの季語、報告しますね!!(予定)

〈例句〉
シャンプー中もめっちゃ話せるヘアサロン  佐藤文香
ヘアサロン出でて夕日の高円寺