【季節・冬 分類・生活(飲食)】
ジビエ
傍題 ピジョン 雷鳥輸入す 穴熊食ふ
俳句プロパーの方は「いやいや、昔から『狩』や各種『罠』、『牡丹鍋』や『桜鍋』も季語でしょう。何を今さら」とおっしゃるに違いない。そうなのである。「熊」や「兎」、「猪」、「狸」、「鴨」などは狩猟の対象として、冬の動物の季語と分類されている。しかし私が今回提案したいのは、それらを日本食の伝統という文脈で食するのではなく、フレンチでいただく際の季節感である。
「ジビエ」とはフランス語で、狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉を意味する言葉であり、高級食材だ。ジ・ビ・エ……この響き。ただでさえ日本では高級なフレンチの、しかもジビエ、という心の高まりを、みなさんも俳句で表現したくはないだろうか。「田舎のじいさんがイノシシを捕まえたから鍋にした、思わず食べに田舎へ帰った」というのももちろん心踊る話だが、それは従来の日本的な価値観で説明がつく。
はじめてフレンチビストロに行ったとき、わからない名前の料理が多すぎて、わかるものを……と思い、「鶉(ウズラ)」と書いてあるものを選んだ。鶉の卵なら知っている。しかし、出てきた料理には、あのかわいらしい卵が見当たらない。それを言うと、連れて来てくれた人は「これが鶉だよ」と鶏肉のような肉を指差した。こ、これが鶉!? 鶉に卵以外の選択肢があることに、心底驚いた。店の人に聞くと、ジビエの野鳥は基本的に輸入するものらしく、野鳥だとほかに鴨や鳩、雉や雷鳥なども入荷するらしい。あとで歳時記を見たら、鶉は秋の季語で、肉も美味と書いてあったが、私たちは普段、和食で鶉の肉と出会う機会はあまりない。最近は害獣駆除で得られた鹿や猪を出す店も増えているが、これも伝統というより現代のオシャレ外食にカテゴライズされている。ジビエを食べることは今後、よりカジュアルになっていくだろうから、俳句に詠まれる機会も増えるに違いないが、100年後の俳人が見たときに、歳時記がつくられたころと2010年代以降では、同じ雉や鶉を食べるのも、少し享受のされ方が違うということを記しておきたい。
先日久しぶりにフレンチビストロに行ったら、店主が「穴熊は年中いけますね」と言っていたが、なかなか熊を食べるイメージがない人も多いので、「穴熊食ふ」で勝手に冬の季語にしてみた。なお、食用に輸入した野鳥といえども「鴉や雀は人気ないんですよ〜」とのこと。たしかに、そのへんにいる鳥だと高級感はない。例外的に鳩は「ピジョン」と呼ばれることによって、それなりの地位を獲得していて、その日も肝ソースでいただいた。「猪と兎とモッツァレラのシュー」にも、アミューズで扱うジビエのファンタジーを感じた。
〈例句〉
ジビエとは蜂の彫られしナイフもて 佐藤文香
燭台や皿のピジョンの朱き爪