佐藤文香のネオ歳時記

第9回「流行語大賞決まる」「ジビエ」【冬】

「ダークマター」「ビットコイン」「線上降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・冬 分類・生活(その他)】
流行語大賞決まる
傍題 流行語大賞 今年の漢字

 正式名称は「ユーキャン新語・流行語大賞」で、毎年12月1日ごろに発表される。2018年の流行語大賞は「そだねー」だそうだ。
 流行語大賞に選ばれた言葉の行く末には、大きく2パターンある。まず、すぐに使われなくなる言葉。逆に言えば、その年の世相を映すもの。一発ギャグなどはこれに該当する。20年前の1998年は「だっちゅーの」が大賞のひとつに選ばれていて、これは「ボキャブラ天国」という当時人気番組に出演していた女性のお笑いコンビ、パイレーツの決めゼリフである。少し前かがみになって両手を膝に当て、もともと大きなおっぱいを両二の腕でさらに寄せる格好となり、「だっちゅーの」と言う(20代後半以上の年齢の方には、説明は必要ないだろう。私が今立川のルノアールでこの姿勢をやってみながら書いているのは、知らない世代のみなさんへの愛である)。「だっちゅーの」といえばパイレーツ、パイレーツといえば茶髪に細眉、茶髪に細眉といえばPUFFYも、と思って口ずさんだ「愛のしるし」(作詞・作曲・草野正宗/編曲・奥田民生)がドンピシャで1998年、というように、その時代の空気感が思い出せるという意味で、この大賞はたいへん素晴らしいチョイスであるといえる。選ばれる時点でその言葉が優れているのではなく、選ばれてから言葉が時代を背負うのである。
 もう1パターンは、その年以降一般的に使われるようになる言葉。10年前の2008年に大賞に選ばれたうちのひとつに「アラフォー」(アラウンド・フォーティーの略)があり、現在はごく普通に使われている。2008年放映の天海祐希主演のドラマ「Around40」(TBS)が起源であることは、もはや忘れ去られているのではないだろうか。
 俳句において、流行語を入れた作品は、とくに新聞俳壇の投句で散見されるようだ。去年の大賞である「インスタ映え」や、今年の候補「ひょっこりはん」なども、実際に句会の現場や結社誌で見たことがある。ただし、新語は共通認識が得られない、流行語は廃れるなどの理由で、ハウツー的には俳句に詠むこと自体ご法度と言われることも多い。しかし、句の出来不出来はどうであれ、新奇な言葉をなんでも取り入れられるというのが俳諧からの伝統。日本語や日本文化の研究の立場の方からも重宝されること間違いなしなので、私個人としては新語・流行語を取り入れていきたいと思っている。
 なお、「今年の漢字」は日本漢字能力検定のキャンペーンであり、流行語大賞とは関わりないが、一年を言葉で表す回顧として傍題に含めた。

〈例句〉
流行語大賞「そだねー」に決まるファミチキ買ふ  佐藤文香
流行語大賞テーブルに顎をのせ