佐藤文香のネオ歳時記

第14回「布団乾燥機」「鼻毛抜く」【春】

「ダークマター」「ビットコイン」「線上降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・春 分類・生活】
布団乾燥機

 学校の俳句の授業で、「朝顔」や「西瓜」が秋の季語だと教わった人は多いのではないだろうか。「えー! 夏じゃないんですか?」と驚く生徒に対して、「ひっかけ問題でよく出るからチェックしとくように」と半ばドヤ顔で応じる教師。真面目な生徒は「注意!」などとノートに書き込みをしておいて、テストでは正々堂々と正解する、その真面目な生徒とはかつての私であった。

 季語の分類というのは旧暦が基準であり、なおかつ「立春」というのは「その日が寒さのピーク、これからだんだんあったかくなりますよ」というあたりであるから、体感的には真冬である2月中旬というのは、俳句的には春にあたる。春の季語は春の季感を表すはずが、体感とのズレが生じているのである。そのズレを是正したいと思う俳人もいれば、ズレを楽しもうという俳人もいて、私としては正直どっちでもいいのだが、このネオ歳時記も歳時記の端くれということで、一応(案外?)伝統を踏襲している(すでにその方針で「カレー」を初秋の季語とした)。2月中旬現在心底助かっているものとして「布団乾燥機」があり、ぜひともこれはもっとも寒い時期である初春の季語としておきたい。なお、布団や毛布は冬の季語である。

 寒い時期は、寝室にエアコンをつけていても布団の中が冷たくて、自分の体温が布団全体にゆきわたるのを待たねばならないのは、冷え性の私にとってはつらいことだった。とはいえ布団はがんばって干しても週に1度が限界。そんなとき、布団乾燥機ラヴァーの友人から、最近のものは「あっため」という機能があって、20分間で布団をほかほかにしてくれると聞いた。「ものすごいあったまる、1万円もしないのに」「ぐっすり眠れる」「感動がある」と熱弁は続く。なんでも、友人は一人暮らし時代に布団乾燥機を導入したらしく、実家に持ち帰ったらお母さんに絶賛されたとのこと。それに感化された私は、先月ついに布団乾燥機を購入した。

 正直、この素晴らしさを知らずに33年も生きてしまったことを後悔している。言うなれば、お風呂と布団のよさがいっぺんに押し寄せるかんじ。想像してみてほしい、温泉のような布団。最高of最高である。100分モードにすればちゃんと乾燥するし、夏は送風モードもあるので年中使えるのも嬉しい。また、あたたかくなったらなったで、花粉のせいで布団が干せない時期が訪れるから、そのときも布団乾燥機の出番だ。はっきり言って有能、がこの季語の本意である。


〈例句〉
わが闇をよろこぶ布団乾燥機  佐藤文香
布団乾燥機や空の見えぬ窓
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


















 

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