佐藤文香のネオ歳時記

第27回「パーカー」「みなみのうを座」【秋】

「ダークマター」「ビットコイン」「線状降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・秋 分類・天文】
みなみのうを座(みなみのうお座)

傍題 フォーマルハウト

 あまりにもネオ季語が思いつかないので、とうとう句会で「自分の思う秋のネオ季語で一句」というお題を出した。そこで最高得点を獲得したのが青木ともじの〈その闇がみなみのうを座だと彼が〉だ。ともじ曰く、「秋に見える一等星は南の空の下方にあるフォーマルハウトだけで、それを含む星座がみなみのうお座なんです。前から季語になったらいいなと思ってたんですよ!」とのこと。フォーマルハウト以外の星は暗く、星座自体は見えにくいそうだ。闇の中にも無数の星が存在している。そこには星座もある。
 この句を読んで、久しぶりに星が見たくなった。私は東京に住んでいるので、フジファブリック「茜色の夕日」を思い出す。東京でも場所によって、星によって、見えるときには見えるものだ。みなみのうお座、昨日うちの家からは見えなかったので、原稿〆切前夜の今日は外に出てきたが、残念ながら曇っている。東京からみなみのうお座が見えるかどうかは、今後確認したい。
 秋は「流星」や「天の川」「星月夜」など星の季語が多いのだが、秋の星座はメジャーな季語とはなり得ていない(白鳥座やペガサスなどを「秋の星」の傍題とする歳時記もある)。涼しくなって空気が澄んで、星が見やすくはなるものの、有名な「秋の四辺形」をつくるペガスス座やアンドロメダ座には案外一等星がないのも一因だろうか。星座で季語になっているものの代表は「オリオン座」(冬)。手元の『合本俳句歳時記(第四版)』(角川学芸出版)には、「冬の星」の傍題として「寒オリオン」「寒北斗」「冬北斗」が載っている。
 星座は由来や名前が面白い。私が秋で一番好きなのは「ちょうこくしつ座」である。検索してもらえばわかるのだが、6つの星が縦長のいびつな六角形をつくっているだけで、まったく彫刻室らしさはない。まだこれが動物などであれば、少々わからなくても、きっと胴体なんだろうな、と思えるのだが、彫刻室は部屋である。その雑然とした空間を、なぜ6つの星で表せると思ったのかが謎だ。この星座を定めたのはニコラ=ルイ・ド・ラカーユという学者で、神話とは関係なく南天に星座を設定した人として知られる。なるほどこの人が言い出した星座は変なものが多く、似たものとしては「ちょうこくぐ(彫刻具)座」がある。部屋よりは道具の方がまだわかる気がする。
〈眼力でつくる星座や牡蠣フライ〉という句をつくったことがあるが、いろいろな星座がどんどん俳句に詠まれたらいいと思っている。句のなかで勝手につくっても、それらしい名前ならバレないかもしれない。ぜひ名句をつくって、その季語を歳時記での立項にこぎつけよう。

〈例句〉
鏡の裏に塗る糊とみなみのうを座  佐藤文香
フォーマルハウトこの世の電波同士の愛
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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