少年の頃、友だちと遊んでいる時におじさんやおばさんが視界に入ることはなかった。まったく無縁の存在だと思っていたのだ。だが、おじさんになった今、町なかで若者や子どもをなんとなく見てしまう自分に気づく。若いカップルが羨ましい。子どもの周囲をうっすらと光が包んでいるのがわかる。そう云うと、年下の友人に怪そうな顔をされてしまう。
「若いカップルが羨ましいのはわかるけど、子どもを包む光ってなんなんですか」
「免疫だと思う」
「そんなの見えるわけないですよ!」
「君はまだ若いからそう思うんで、年を取ると見えるんだよ」
「冗談ですよね」
「赤ちゃんを近くで見た時、肌のきめ細かさにびっくりすることがあるでしょう?」
「それはありますけど」
「その感覚がもう少し増幅されると、光が包んでいるのがわかるんだよ」
「まさか」
信じてもらえなくてもいい。とにかく、若者や子どもや赤ちゃんはおじさんに興味がない。だが、おじさんは若者や子どもや赤ちゃんに興味がある、というか、勝手に目に飛び込んでくる。両者は非対称な関係なのだ。どうしてだろう。あっちはいずれこっちに来るけど、こっちはもう二度とあっちには行けないからかなあ。
先日、妻が実家から「サイン帳」を持ってきた。小学校の卒業記念に友だちの間で回し合ったものらしい。普通に「中学でも仲良くしてね」的なメッセージもあるのだが、その横に記された各人の自己紹介が面白くて思わず熟読してしまった。幾つか抜き出してみる。
特技 = 木登り、一輪車、わめくこと
最後のは特技なのか。
好きな動物 = 犬、白鳥、ぞお
最後のは「象」とか「ゾウ」とか「ぞう」では駄目なのか。駄目なんだろうな。
好きな色 = うすい色
ユニークな答えである。色には確か三要素(明度、彩度、色相)があって、こういう時、普通は色相を答えるけど、これは明度? 彩度?
好きな数 = 1、2、3、4、6、7、8、9
ユニークな答えである。だが、5……。
これらを書いた人はばらばら。つまり、一人ではなくみんなが凄いのだ。「サイン帳」の全ページに、昭和後期の小学六年生女子のパワーが炸裂している。