佐藤文香のネオ歳時記

第32回「イルミネーション」「通帳記入」【冬】

「ダークマター」「ビットコイン」「線状降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・冬 分類・生活】
通帳記入

傍題 通帳記帳 残高照会

「年末賞与」、俗に言う「ボーナス」は冬の季語、これは入ってくるお金。「忘年会」や「クリスマス」も冬の季語、こちらはお金が出ていく機会。どちらも十二月のことである。キャッシュレスの進む現代、ボーナスは振込&決済はカードとなると、みなさん自分の懐具合の把握がおろそかになる。現在口座に一体いくら入っているのだろう……そこで銀行へ行き、通帳記入をしてみるわけだ。すでに通帳レス化も進んでおり、web上で残高の確認をするという方も多いだろうが、行ごとに出納が印字される通帳で、ページをめくって一年間の自らの金に関する営みを顧みるのは、年末らしくていいのではなかろうか。今うすうす不安を感じている方は、ぜひ本日中に銀行へ行き、残高照会だけでもしておいてほしい。
 もっとも通帳記入のやり甲斐が感じられるタイミングは、年末のクレジットカードの引き落とし日、ちょうど仕事納めのころ。危険なのはそのちょうど一ヶ月後の引き落とし日で、年末年始に気が大きくなってすべてカードで払ったりしているとエラい目に遭う。はやめに予約するのを忘れて仕方なく正規料金で飛行機を予約してしまった場合など、帰省にかかる交通費もイレギュラーな出費。さらに、親戚の子供達へのお年玉や同窓会、新年会など、うっかりしているとボーナスのボの字も残っていない、ということになりかねない。
 と書いてはみたものの、私は12月に正社員として働いた実績がなく、冬のボーナスをもらったことがないため、毎月の仕事以外になにか単発のものが入らない限り、お金は出ていくばかりである。にも関わらず、口座内のお金の動きに無頓着で、カードの支払いができなかったことも、残高が1000円を切ったことも何度かある。ある年のクリスマスはお金がない上に彼氏にも振られ、セブンイレブンのチーズケーキにコーヒーフレッシュをかけて食べた。冬の金欠は淋しさ・寒さに直結するので、できる限り避けたいものである。金欠は自分による人災であり、早い段階で、しかもこまめに記帳しておけば避けられることも多い。

〈例句〉
駅前を通帳記入してまはる  佐藤文香
残高照会犬が来て樅を嗅ぐ
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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