いつもカッコつけてしまう。ミュージシャンとしての私を知っている人は、私にどんなイメージを抱いているだろう。人前では神秘的に歌ったり、ファッションの撮影でクールな表情を見せたりしているから、そんな印象があるかもしれない。でもひょっとしたら、私が喋っているのをみたり聞いたりしたことがある人には、私のトホホな部分が、バレているかもしれない……。
何を隠そう本当の私はどちらかといえばトホホな人間である。カッコつけようとして派手な服を着るときもあるが、人に見られない日は適当な服装をしている。歌うとき以外は声が小さすぎて、人と会話が成り立たない。よく怒るし、人並みに緊張もする。いつまでもクールになれない自分に気づくと、一旦はがっかりする。でもそのたびに、それも人間らしくていいんじゃないかと思わせてくれる本たちに、何度も励まされてきた。
少し前に、友達とお揃いで二冊の本を買った。本をお揃いにするのは初めてだったが、私はその友達のことがとても好きなので、彼女がどんなものを心の栄養にしているのか知りたいと思った。そのうちの一冊が向田邦子の『メロンと寸劇』(河出書房新社)だった。副題は「食いしん坊エッセイ傑作選」。この類は、読んでいてお腹が減ってしまうものが多い気がするが、この一冊では、美味しいものの描写よりも、それを目の前にして発揮される筆者の朗らかな人間らしさに興味を惹かれた。中でも好きなのは「スグミル種」のエピソード。頂き物をすぐ見たい衝動に駆られることについて、〈(じゃがいもや牛に品種があるように)人間も「スグミル種」と「ミナイ種」に分かれるのではないか〉と書いている。頂き物の中身が気になって話に集中できなかったり、逆に見ないで忘れて、中身の食べ物が傷んでしまったり。「この間抜けな感じ、よくある~」と思わず頷いてしまうような、トホホ体験が詰まっている。
向田の名前は、国語の授業でも聞いたし、よくおしゃれなイメージで語られていることも知っていたが、そんな大作家にも私と同じトホホな一面があることに驚いた。そして、それをときに恥じながらも楽しんでいる彼女の眼差しは、読んでいてとても軽やかな気持ちになった。
よく励ましてもらっている本といえばイ・ランの『悲しくてかっこいい人』(呉永雅訳、リトル・モア)も思い浮かべる。彼女は歌手でもあり、YouTubeのライブ動画をきっかけに知った。彼女の言葉は自分の暮らしや人間関係について思ったことを、ピュアな子供みたいな素直さで捉えている感じがする。特に好きなのは、「書ける、できる」というエピソード。家にいると仕事をサボってしまうという理由でシェアオフィスを借りたときのことが書いてある。これまでうまくできなかった自分を反省しながら、新しい場所を前にして、心機一転、今度こそはと、自分を鼓舞する彼女の姿は、「そんな日が私にもあるわ」とクスッと笑わせてくれる。向田邦子にも共通するが、言い方によっては愚痴になることを巧みなユーモアで面白く見せる彼女の文章がとても好きだ。自分のダメなところも、キュートに見える気がする。
大人になって相手との距離感がうまく掴めるようになった分、人のキラキラした側面ばかりが目に入ってくることが増えた。それで自信が無くなったり、疲れたりしている人は、紹介した二冊の本を手に取ってみて欲しい。まあ、こんなもんか、と思って、毎日がちょっと気軽に、楽しくなると思うから。