絶叫委員会

【第106回】緊急連絡網

 懐かしい友だちからメールが来た。
 たぶん、十年ぶりくらい。しかも、ミクシィ経由である。ずっとやりとりがなかったから、それ以外に連絡方法がなかったんだろう。名前を見て、おっ、と思って、それから一瞬、身構える。何かあったのか。そういう時って、良くないニュースだったりすることがあるから。おそるおそる中身を読んでみる。

 ほむらさん、こんばんは。
 夫の同僚、元自衛官なんだけど、照れながら「この間、初めて民間機に乗った」って言ったの。
 よくないですか?
 以上です。

 思わず、笑ってしまった。なんというか、いろいろ面白い。まず、十年ぶりなのに、単に「こんばんは」って云うところ。時間が流れていないかのようだ。
 もちろん、「この間、初めて民間機に乗った」はいい。こちらの好みをよく把握している。というか、その友だちと私は、そもそも好きなものが似ているのだ。彼女はこの発言がよほど気に入って、わざわざ報告してくれたんだろう。次は、何年後に、どんなメールが届くのか、楽しみだ。

 また別の友人は、或る日、新聞記事らしい画像を送ってくれた。大きな象の写真である。「?」と思って、クレジットを読んでみた。

「恋が実らずネパール南部で殺人を繰り返しているゾウ=AFP時事」

 うーん、と思う。検索してみたところ、「このゾウは過去数年間で少なくとも2回、気に入った雌と夫婦になろうとしたが妨害されて果たせず、荒れるようになった」とのこと。でも、荒れ狂っているとか、絶望しているとか、人を踏んでいるとか、そういう様子はない。見た目上は普通の、横向きの象である。
 そして、友だちからのコメントは特に無し。とにかく「恋が実らずネパール南部で殺人を繰り返しているゾウ」の姿を私に見せたかった、ということだろうか。その気持ちがありがたい。

 そして、また別の友人は、先日こういう連絡をくれた。

 さっき、石の上になめくじが乗って、お鮨みたいになってましたよ。

 想像してみた。確かに、質感が似ているような気がする。でも、本人は自分がお鮨みたいになっていることに気づいていないだろう。お鮨を知らないからな。他に用件は記されていない。「さっき」ってことは、まだそのままかもしれない。なんか、世界が素晴らしく思えてくる。
(ほむら・ひろし 歌人)

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