昨日、なに読んだ?

File 121. 佐渡島の本屋で最初に売れた本

紙の単行本、文庫本、デジタルのスマホやタブレット、電子ブックリーダー……かたちは変われど、ひとはいつだって本を読む。気になるあのひとはどんな本を読んでいる? 各界で活躍されている方たちが読みたてホヤホヤをそっと教えてくれるリレー書評。今回のゲストは、佐渡島で本屋ニカラを営む米山幸乃さんです。

 昨年末、長らく集落の中心的存在であった蕎麦屋のご夫婦が引退した。ニカラ開店当初は歩いて本を買いに来てくれていた大山さんは、今はあまり家から出なくなった。「店での立ち話は疲れるから」と置いていった迷彩柄の折り畳み椅子は、大山さんの身体を支えることがないまま店の壁に立て掛けられている。向かいのAコープが閉店するのは時間の問題だと、誰もが噂している。

 声の大きな人が真っ先に切り捨てようとするような離島の片隅では、ひと一人がいなくなること、場所がひとつなくなることのひとつひとつが、重い。しかしそのことは、居ること、在ることのひとつひとつが、とても重いということでもある。
 誰かのことを思うときに些細なエピソードばかり思い出すのは、なんでもないような語りや出来事こそが、「その人」のことをよくあらわしているからなのだと思う。
 猛烈な寂しさとうれしさに揺さぶられ続けて、それでもこの土地で店をひらく日常を選んでいるのは、戸惑いも、ささやかな、かけがえのない話をたくさん聞いておきたいという悪あがきも、本屋という場所ならば全部ゆるしてくれるような気がするからだ。