相手が留守番電話と気づかずに話しかけてしまうことがある。ちょっと恥ずかしい気持ちになる。それが留守電であることを、なるべく早く気づかせて欲しい。まず音楽が流れてきたり、応答が自動音声だったりすればすぐにわかる。肉声を吹き込んだメッセージの場合は、なんとなく機械っぽいというか、体温が低そうに話して貰えるとありがたい。フレンドリーであればあるほど、錯覚するから困るのだ。
逆のパターンもある。以前、駅の自動販売機を使った時、途中までのガイドは女性の音声だったのに、支払いをしたら、突然、力強い男性の声で「お札をお取りください」と云われて、びくっとした。この男はどこから出て来たんだ? さっきのお姉さんはどこへ消えた?
自動音声なのに性別が変わるなんて不思議だけど、あれはたぶん、お釣りの取り忘れに対して、こちらの注意を喚起するために、機械なりに肉声度を上げた、ってことなんだろう。それなら、最後に「小銭も忘れないでね」と、もう一度、お姉さんに出てきて欲しかった。それとも、逆に嫉妬してしまうだろうか。自分が立ち去った後、暗い箱の中に残される二人を思って。
自宅の最寄りの駅には、「こちらはJR線の改札口です」という声がずっと流れている。JRの改札と地下鉄の改札が並んでいるから間違えないでね、という意味らしい。だが、面白いことに、そのメッセージが吹き込まれた肉声で、しかも、一回ごとに別人が喋っているのだ。駅員さんが総出で録音したのだろうか。
確かに、「こちらはJR線の改札口です」なんてメッセージは、自動音声ではスルーされてしまいそうだ。自動音声>一人の声>一回ごとに別人の声、の順に注意を引くと思う。肉声度が上がれば上がるほど有効なのだ。これでもまだ改札を間違える人がいたら、さらにそのレベルを高める必要がある。全員が出身地のお国訛りで喋ったらどうだろう。
先日、「アルプスの少女ハイジ」を見ていた時のこと。番組の最後に、次回のあらすじを説明するナレーションが流れるのだが、その声がこう云った。
次回の「アルプスの少女ハイジ」は「悲しい報せ」、お楽しみにね!
え? と思った。いや、何故そうなるのかはわかる。「次回の『アルプスの少女ハイジ』は○○、お楽しみにね!」とは、定型のフレーズなのだ。だが、その日はたまたま○○の中身がよくなかった。「『悲しい報せ』、お楽しみにね!」って……。ナレーションの声は人間だけど、中身は機械(?)なんだなあ。
ちなみに「悲しい報せ」とは、お乳の出の悪い山羊のユキちゃんが飼い主に処分されてしまうかも知れない、という報せのことだった。ハイジとペーターは、そんなユキちゃんをなんとか助けようとがんばるのであった。
(ほむら・ひろし 歌人)