昨日、なに読んだ?

File35. 出会い系サイトで会った70人に本をすすめまくったあとに読んだ本
桃山商事『生き抜くための恋愛相談』、岸政彦『はじめての沖縄』、アルテイシア『エロ戦記』、北原みのり『アンアンのセックスできれいになった?』

紙の単行本、文庫本、デジタルのスマホ、タブレット、電子ブックリーダー…かたちは変われど、ひとはいつだって本を読む。気になるあのひとはどんな本を読んでいる? 各界で活躍されている方たちが読みたてホヤホヤをそっと教えてくれるリレー書評。 【花田菜々子(書店員)】→→浅生鴨(作家)→→???

 この半年はほとんど本を読む時間がなかった。これは多くの本に触れ、本をすすめることが生きがいの自分にとってはとてもつらい期間だった。
 私はふだんは書店員をしている。が、ふとしたきっかけで、少し変わった自分の体験を『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』というそのままのタイトルで出版することになり、11月からは人生初の執筆にかかりきり、それだけでもただごとではないのに、年明けからは転職までして、3月に新しくオープンする本屋の店づくりと本の校正作業で死ぬほど忙しく、いや、ほとんど死んでいた。読みたい数多くの新刊が、取れなかった回転寿司のお皿のように、遠くへ流れて行ってしまうように感じ、絶望した。
 しかしそんな日々もカタがつき、やっと本屋で新刊を眺め、好き放題手に取ってレジに持っていくあの素晴らしい生活が戻ってきたのだ。今はもう浴びるように読みたい。読むぞ読むぞ。しかしあの見送った寿司、いや、新刊の何が読みたかったんだったか。いざ読める環境が整うと「なんか面白い本ないかなあ」とぼんやりしてしまう自分であった。あと、本が読みたくて仕方ないのになぜかツイッター見ている自分。しっかりしろ。誰か70人くらい、私に合いそうな本をすすめまくってくれないだろうか。

     *

 と思っていたら、桃山商事(という恋愛相談ユニット)の清田さんから、ご自身が出した本『生き抜くための恋愛相談』(イースト・プレス)をいただいた。パラパラと読み始めたら、これが異常な面白さだった。恋愛の悩みって遠ざかっていたので自分からは手に取っていなかったが、桃山商事の話の聞き方、問題整理の方法にとても共感したのだ。悩み相談の類書は枚挙にいとまがないし、ともするとそれは「俺ならこうする」という俺ドヤ劇場になりがちだ。しかし桃山商事はひたすら悩みに寄り添い、問題を整理し、その人がどうしたいかを大事にする。恋愛相談って「そんなクズ男とは別れろ!」みたいな、雑で勢いのある回答がもてはやされるのがとても嫌だ。きちんと考えることを放棄させようとする人も、そう促されることを期待している人も。

     *

 京都・大阪で自著のイベントをやらせてもらうことになり、行きの新幹線で岸政彦さんの新刊『はじめての沖縄』(新曜社)を読み返す。とても不思議な本だ。
 沖縄についての社会学的な本だと思って読み始めると、なかなか本題が始まらない。始まらないまま話があちこちに飛び、夢中になって読んでいるうちに終わる。あれ? そういう話あった? とも思うのだが、どんなそれらしいレポートを読むより、沖縄についてあれこれ考えてしまっている自分がいる。倒置法のような不思議な魅力を持つ本だ。
 この本は、当事者でない者が、その問題にどう関わっていくかを教えてくれるガイドブックだと思った。沖縄だけではない、原発、人種差別、死刑制度、国際紛争、……私たちは当事者でなくともその問題に胸を痛め、ときに怒り、何とかならないかと考える。しかし、当事者でないのにわかったようなことを言っていいのかと不安になったり、どのような態度をとって当事者の方を尊重すべきなのか迷う。そんな思いに答えをくれる本だった。
 しかし実際にお会いした岸さんのかっこよかったこと。

     *

 日曜日、10歳の男子が家に遊びに来た際、私の本棚からアルテイシア『エロ戦記』(スタンダードマガジン)と北原みのりの『アンアンのセックスできれいになれた?』(朝日新聞出版)を見つけ出し「エロ本!」とはしゃいでいる。なんと2週間前にセックスという単語の意味を知ったばかりの逸材らしい。北原みのりのほうは期待外れだったようですぐ床に捨てていたが、『エロ戦記』のページから太字で書かれているタイトルを「今までに入れたチンポの本数を覚えているのか?」「おじさんはなぜ尻を割るのか」など、読み上げながら爆笑している。いちばん気に入ったらしいのは「マンコ・イズ・ビューティフル!!」で、帰り道でも空に向かって連呼していた。「マンコ」と絶叫するだけの小学生は凡庸でつまらないが、「マンコ・イズ・ビューティフル!!」って叫ぶ小学生って、ガチフェミ勢もケアできているし、進みすぎた性教育が行き届いている子どもみたいで面白かった。