佐藤文香のネオ歳時記

第4回「栗鼠」「シルバー・ウィーク」【秋】

お待ちかね!(かどうかはわからぬが)「佐藤文香のネオ歳時記」がついにスタート! 「ダークマター」「ビットコイン」「線上降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・秋 分類・動物】
栗鼠
傍題 縞栗鼠 赤栗鼠 台湾栗鼠 クリハラリス

 リスにふさわしい季節といえば、秋だろう。紅葉した森のなかで笛を吹いているような、絵本的なイメージが頭から離れない。しかも漢字で書くと栗鼠で、栗は秋の季語。だが、同じリス科の哺乳類であるムササビ(鼯鼠)は冬の季語である。リスが秋に似つかわしいことを証明せねばなるまい。そう考えた私は、東京都町田市にある「まちだリス園」に向かった(月曜日に一人で)。
 リス園は町田駅からバスで15分ほどの「薬師池」というバス停から少し歩いたところにあった。同じバス停で降りたのは、おばあさんと4歳くらいの女の子。女の子はバスの中で「リス園行ったことある!」と言っていた。二度目だろうか。雨が上がって蒸し暑い。
「リスはともだち」とかかれたゲートをくぐり、入場料400円を払うと、まずはゲージにシマリスがいて、しきりに顔を洗うしぐさ。かわいい。次のゲージのアカリスの姿は見えず、進むと亀やウサギに蛇、マーラとテグー、そして大量のモルモットがいた。ムジボウシインコのじろうくんは「バイバ~イ」などとしゃべる。とはいえ小動物園的な部分はそれで終わり。いよいよリス放し飼い広場へ。
 ドアを開けてもらって広場に入り、リスのエサを購入。同時に、手袋とミトンを渡される。広場には軽い傾斜があって、リスが隠れるために組まれた木、子供たちが絵を描いたカラフルなリス小屋がたくさん設置されている。と、全体を見渡したところで、「こわいー!!」と泣きじゃくっている声が聞こえた。バスで一緒だった女の子だ。来たことあったんじゃなかったのか? 女の子の横までぴょーんとやってきたリスは、さっきゲージで見たシマリスとは違う。タイワンリスという種類らしい。いわゆるリスと言われて思い出すのはシマリスの方。タイワンリスには模様がなく、全身ほぼ同じ土色で、野性的な印象だ。でも、尻尾が太くて目がかわいい。
 広場内を歩くと、木の隙間にけっこうリスがいて、そこに手をのばしてエサである向日葵の種を与えた。リスたちは我々が手にはめたミトンの上の種を口にくわえ、木の上に持って帰ってそこで両手に持ちかえ、上手に中身だけを食べることを繰り返す。そして何の合図か、たまに一斉にギャーギャーとカラスのような声で鳴いた。
エサをあげながら一周して、もうなんとなく満たされてしまった頃合いで、ちょうどウサギのふれあい体験が始まって、放し飼い広場からはほとんど人がいなくなったが、まだエサが残っていたのでぶらぶらと歩いていたら、スタッフの人たちが「前も来てたけど、ダメな子はダメですねぇ」と話すのが聞こえる。あの女の子のことだろう。おばあさんは怖がり泣く孫を連れて、ここを何度も訪れているのだろうか。そうまでしてでもリスに会いたいおばあさんなのか、それともスパルタ教育なのか。
 リス園を出ると、日差しは強いものの、風は涼しかった。そういえば、向日葵は夏の季語だから、リスが食べていた向日葵の種は秋のものといえる。よかったよかった、リスは秋でいきましょう。バス停からは背の高いキバナコスモスが見えた。

〈例句〉
跳び帰る栗鼠へ木立はふんだんに  佐藤文香
裸めく台湾栗鼠や花芽を食べ