昨日、なに読んだ?

File47.年の終わりにワンダーを浴びるための本
大森望編『NOVA 2019年春号』、西崎憲編『万象』、『GENESIS 一万年の午後』

紙の単行本、文庫本、デジタルのスマホ、タブレット、電子ブックリーダー…かたちは変われど、ひとはいつだって本を読む。気になるあのひとはどんな本を読んでいる? 各界で活躍されている方たちが読みたてホヤホヤをそっと教えてくれるリレー書評。 【高山羽根子(小説家)】→→さやわか(批評家)→→???

 みなさんにとって今年はどんな年だったでしょうか。ちょっと文字のかけるカナブンこと高山羽根子と申します。もしよろしかったら、頭の片隅にでも覚えておいてください。今年中までで良いんで。来年わすれて良いんで。来年はまた覚えてもらえるように頑張ります……。

 高山が創元SF短編賞出身者ということで、短編のSF小説読み(書き)視点からの紹介になりますが、今、SFやファンタジーの短編はとても力のある書き手に恵まれています。これは日本の文芸というかカルチャーの、けっこう大きな現象なんじゃないでしょうか。

 発売日順で言うと、まず12/5発売、河出書房新社『NOVA 2019年春号』。もうかれこれ13冊目になる、書き下ろしSF短編アンソロジー界では老舗と言って良いシリーズです。宮部みゆきや新井素子らのビッグネームに2017年SF大賞受賞者の飛浩隆と小川哲、カクヨム出身の赤野工作、柞刈湯葉ほか今回も豪華執筆陣が揃っています。これも1冊目から責任編集を務めている大森望の人徳でしょうか。日常に異質なものがふわっと入ってきたかと思えば、旧約聖書の翻訳がごにょごにょしてああなったり、月と地球とで通信遅延と戦いながら格闘ゲームやってたり。さらには猫SFが2本! SFといえばなぜか犬より猫なんです(『跳躍者の時空』とか『夏への扉』とか)。

 お次はちょっと毛色が変わって、12/13リリースの、日本ファンタジーノベル大賞(昨年めでたく復活を遂げました)出身者による短編集『万象』です。編者は自身もファンタジーノベル大賞受賞作家であり、同書の発行元である「惑星と口笛ブックス」を主宰する西崎憲。『たべるのがおそい』(書肆侃侃房)という大変にエッジの立った文芸誌の責任編集もおこなっている、現在の日本のストーリーテリングシーンを語るうえで欠かせないキーパーソンです。参加作家陣も小田雅久仁、勝山海百合、北野勇作、南條竹則、西崎憲、藤田雅矢……ホラーやSFの読者にもなじみの深い作家が多いかと思います。長さも数百字の掌編から100枚以上の中編まで、100枚超で1000円という超ハイコスパの一冊。これだけの作品が一堂に会する奇跡のような短編集です。

 12/21に東京創元社から発売された『GENESIS 一万年の午後』は、創元SF短編賞出身の書き手や、『年刊日本SF傑作選』収録の作家らによるSF短編を中心にした単行本。2010年刊の『原色の想像力』以降、思えばこの賞からたくさんの作家が生まれています。彼らと作風ごと対峙するかのような御年74歳の堀晃の日常災害SFもみごとです。王道SFから、なつかしさのあるストロングスタイル、宇宙的なビジョンを舞台にしたミステリ、サイバーパンクや思索フィクションなど、かなりレンジの広い1冊。
 また、単行本ながら二本のエッセイを掲載。SF表紙イラストレーションでおなじみの加藤直之&SF音楽家として知られるバリトンサックス奏者の吉田隆一。これがまた、どちらも長くSFに携わっている上に、専門的な視点から俯瞰しているというコラムで、短編の間でとてもいいアクセントになっています。

 この年の瀬に集中して出た3冊のアンソロジー、文庫、電子書籍、単行本とそれぞれ形式が違い、またエッセイも含めすべてかぶりなく別の作家が書いています。

 この現象、きっと後々大事なポイントだったなと思え(る様な気がし)ます。覚えておいてください。高山のことは今年いっぱいで良いんで、この現象があったことだけは、まあせめて来年半ばくらいまで。
 

関連書籍