【季節・新年 分類・生活】
あけましておめでたう
傍題 明けましておめでとうございます あけおめ ハッピーニューイヤー
俳句には季語と呼ばれる言葉を入れるように、と一応決まりのように言われており、季語には「春」「夏」「秋」「冬」のほかに正月関係の言葉を集めた「新年」という独特のカテゴリがある。「門松」や「書初」、「年玉」だけでなく「初風」や「初旅」など、その年初めてのものにはとにかく「初」をつけて新年の季語化し、新たな年を迎えた気分を盛り上げようというもの。俳句ではお祝い事や楽しい気分が重宝される傾向にあり、他の季節でも節句やお祭はことごとく季語であるし、友人に慶事があると祝句を書いたりするので、正月という一年に一度の大イベントが四季並の扱いを受けるのも頷ける。しかし、待てよ? 正月に一番よく使う言葉が、季語になっていないのではないか……? 挨拶の言葉「おはよう」「さようなら」などが季語にならないのは、通年使えるからであって、正月限定の挨拶語「あけましておめでとう」は、季語にしていいんじゃないだろうか。
と書いた瞬間、自分の心のなかにいる俳句保守派の誰かから、こう反論された。「俳句とは挨拶。新年の季語で一句詠めば、そこに『あけましておめでとう』の心はおのずと含まれるものである」と。確かにそうなのだ。芭蕉は各地をめぐり、そこで連句を巻く際、その土地や泊めてくれる人への挨拶の気持ちを発句に込めたといわれる。発句がのちに俳句と呼ばれるようになった経緯を考えれば、俳句がその日その時、その場所への挨拶の詩であるのは当たり前ともいえる。
でも、「あけましておめでとう」って、言葉としてよくないですか? 新年一発目の挨拶、「あけまして」の「あ」から始まるのが、音としても見た目にも、すごく好きだ。さらに「おめでとう」も母音で始まるので、声に出したときに言祝ぎの感が出る。平仮名「あ」「お」「め」の左から右斜めに大きくぐるっとやるのも元気がよい。年賀状や書き初めで何度も書いたから、新しさと同時に懐かしさも湧く。「ございます」まで言うと15音になってしまうので、だいたい17音くらいの俳句にとっては長すぎるのだが、新年の豊かな気持ちでたっぷり字余りにしてみるのもいいだろう。「あけおめ」や「ハッピーニューイヤー」は軽い言葉なので、用い方には工夫が要るが、ぜひ名句を目指してほしい。
〈例句〉
あけましておめでたうとて粘る舌 佐藤文香
マスキングテープ貼り安計於女(あけおめ)と書く