佐藤文香のネオ歳時記

第12回「カピバラ」「グラタン」【冬】

「ダークマター」「ビットコイン」「線上降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・冬 分類・動物】
カピバラ
傍題 カピバラ温泉 カピバラの湯

 週末ごとに東京から長崎バイオパーク(動物園)までカピバラに会いに行くおじさんとSNSで仲良くなる程度にはカピバラのことが好きで、どの動物園に行ってももちろんカピバラのチェックは欠かさないのだが、最近各地で話題の「カピバラ温泉」はこれまで見たことがなかった。カピバラは齧歯目最大の動物で泳ぎが得意、危険を察知するとすぐ水のなかへ潜るらしい(ただ、水中はトイレも兼ねているというので注意が必要)。そんなカピバラのため寒い時期に温泉を用意し、そこに柚子などを浮かべて、温泉につかっているカピバラを鑑賞するのが「カピバラ温泉」だ。ただ、温泉を沸かすのにもお金がかかるから、来場者の多い休日にしか温泉イベントを開催していない動物園も多く、どおりで人混みが苦手でど平日にしか動物園に行かない私は見る機会がなかった。
 関東の動物園を調べて、金・土・日にカピバラ温泉をやっているという、埼玉県こども動物自然公園に行くことにした。石造りの湯船に桶とタオルが用意され、温泉らしくのれんまであり、やはり黄色くて大きな柑橘がたくさん浮かんでいた。その日はあたたかくて、あまり大人のカピバラは温泉に入っておらず、こどもたちが湯船でわいわい遊んでいた。希望者は足湯につかりながらカピバラを見ることもできるとのこと。私が行ったのは金曜日だったのでそんなに人は多くなかったが、土日は人気のイベントだ。
 大きいとはいえネズミの仲間ということで繁殖しやすいらしく、大人のオスだけが仕切られており、オスの秋馬(しゅうま)が一匹で小さい温泉に入っていたのが寂しそうで印象的だった。また、埼玉県こども動物自然公園のそこは「カピバラ・ワラビー広場」だったので、カピバラを見るために歩いていると、そのへんをワラビーがびょんびょんジャンプしているのも面白かった。ワラビーは落ち葉を食べていた。
 カピバラはやはり、気持ち良さそうなのが素晴らしい。水の外にいるカピバラも、腹を撫でたりすると目をとじて全身の毛をボフッとさせ、昇天したかのような顔になるのがよい。その顔つき体つきがもたらす幸いは、寒い冬にこそふさわしいだろう。



〈例句〉
カピバラの仔ら温泉に揉み合ひぬ  佐藤文香
友情やカピバラの湯に映る空