【季節・春 分類・生活】
ティッシュ
傍題 ポケットティッシュ
先月から友人Aとヨガに通っている。ヨガの醍醐味は先生に教わることだ、と言うとなんのこっちゃ、と思われるかもしれないが、体がバリカタでどのポーズも満足にできない私にとって、週1回すてきな先生に楽しく教われることこそが癒しである。しかも言われたとおりにやれば、1時間体を動かしたことになる。
先日ヨガに行ったら、「みなさん、花粉は大丈夫ですか?」と鼻声の先生。「ティッシュとゴミ箱、(スタジオの)真ん中に置いときますので、いつでも鼻かんでいいですからね! 私も途中で鼻かんでるかもしれません」。その配慮というか、気の置けなさに、生徒一同は一気に和んだ。私は花粉症ではないが、その日は精神的にまいっており一日寝ていて、夜のヨガにだけ這い出してきたような状態だったので、先生にだって調子悪い日あるよな、と思ってホッとした。結局、レッスン途中で鼻をかんだ人は一人もいなかったが、スタジオ中央のティッシュは我々の守り神となった。
小学校のころ、いや中学、高校でもだろうか。「鼻をかむ」ということは、恥ずかしいことのように思えた。できるだけすすってごまかしたり、トイレの個室で鼻をかんだりしていた。とくに女子は、人前で鼻をかめないムードがあった気がする。大人になるにつれて、鼻くらいかみたいときにかんでいい、というのを知った。句会にマイボックスティッシュと、使用後のティッシュを捨てるマイゴミ袋を持参する人がいると、お大事に、という気持ちもあるが、少し嬉しさも湧く。俳句のことを真剣に話す以外は、できるだけ緊張せず、くつろいでほしいからである。
どなた様もご存じのとおり「花粉症」はすでに春の季語で、『合本 俳句歳時記』(角川学芸出版)では「杉花粉」とともに「杉の花」の傍題となっている。もし「花粉症」が傍題ではなく立項されれば、「ティッシュ」をその傍題とする手もあるかもしれない。しかし、ティッシュは春に利用価値があるだけでなく、もの自体に春らしさがあるので、単独での立項に値するとも言える。白くてやわらかく、春の光や空気との親和性が高い。このネオ歳時記はインチキだとお思いのあなたも、春らしい季語とティッシュを一句のなかで組み合わせてみてほしい。雰囲気が重複し、あたかも季重なりの様相を呈するだろう。
〈例句〉
空調や靡き易きはかのティッシュ 佐藤文香
メトロ終電降りてポケットティッシュ買ふ