百田尚樹はツイッター上でわたしをブロックしている。
東浩紀もわたしをブロックしている(ことを最近知った)。
石井孝明という人(ジャーナリストなの?)もわたしをブロックしている。
ところが。
その界隈の人でありながら、わたしをブロックしないビッグなハートの持ち主。それが我らがドクター、高須克弥である。
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しかし。
そんなドクター高須が放った、こんなツイートが気になった。
高須克弥
松本人志さんのおっしゃるどおりだと思います。
サイコパス遺伝子を持った個体ができるのは人間以外の生物でも見られます。
突然仲間を殺傷し始めます。
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■川崎殺傷事件から高須ツイートまでの流れ
去る2019年5月28日。神奈川県川崎市で、通り魔による殺傷事件が起こった。被害者のうち2人が死亡、18人が負傷。犯行の直後、加害者(51歳。長らく引きこもり)は自ら首を刺して死亡した。
この事件を受けて、立川志らくが「死にたいなら1人で死んでくれよ」と発言。6月2日の『ワイドナショー』(フジテレビ系)では、その発言の賛否に触れる場面があった。すると松本人志が持論を展開したのだ。
「人間が生まれてくる中で不良品が何万個に1個あるのはしょうがないと思うんすね。それをみんなの努力で、何十万個、何百万個に1個に減らすことはできるのかなと思う。正直、僕はまあ、こういう人たちは絶対数いますから。もう、その人たち同士でやりあってほしいですけどね」
そんな松本発言に対してドクター高須がコメントしたのが、先に引用したツイートである。
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松本人志の発言に知性を求めても無駄だ。だが高須克弥は……
先ほどまでは「我らがドクター」などと書いていたが、ここからは正直に行こう。もちろん高須克弥は、脱税野郎で、ヒトラー礼賛者で、レイシストだ。つまり、倫理や道徳の面では見下げ果てた存在である。
それでも医者である。腐っても医者である。つまり、ある程度以上の知性は保証されていると見ていいだろう。
なのにこれか?!
というわけで、今回は高須克弥のツイート「サイコパス遺伝子を持った個体ができるのは人間以外の生物でも見られます。突然仲間を殺傷し始めます」を検証するのだ。
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■ひきこもりはジム・モリアーティの夢を見るか?
●ドクター高須克弥の金言「サイコパス遺伝子を持った個体」
この部分には「加害者51歳はサイコパスである」という暗黙の前提がある。 しかし! そもそもサイコパスは、引きこもりになぞならない。
そう断言できるのは、わたし自身がサイコパスというものに魅せられているから。何年か前から、彼らに関する文献を読み、専門家による動画講座を見て、多少は勉強してきた。
サイコパスaka精神病質者とは、反社会的な人格を持った人物のことである。 まず、大きな括りとして「パーソナリティ障害」と呼ばれるものがあることを承知されたい。とある個人の行動/生活/性格様式が社会の平均像からかなり隔たっており、それがその人と社会との間に様々な軋轢や葛藤や障害をもたらしているケースの総称である。
その「パーソナリティ障害」内には――分類法自体も複数あるのだが――クラスターB「劇場型」という分類があり、その中の1タイプが反社会性パーソナリティ障害。そこに含まれるのがサイコパスである。
つまり「サイコパス<反社会性パーソナリティ障害<劇場型<パーソナリティ障害 in general」ということだ。
さて、サイコパス。
その特徴には諸説あるが、よく挙げられるのが……
●踏み込んだつきあいをしない限りは魅力的
●弁が立つ
●病的な虚言癖がある
●他人を操り、策略をめぐらす傾向
●極端に利己的で自己中心的
●誇大妄想&自己陶酔的
●良心(の呵責)と罪悪感の欠如
●他者に対する共感も欠如
●無責任
●すぐ退屈し、欲求不満になる
といったあたり。
現実世界でいえば、「人民寺院」のジム・ジョーンズだろうか。だが、わたしと同じようなドラマや映画を見る傾向がある人には、とてもわかりやすい例がある。
ドラマ『シャーロック』のジム・モリアーティだ。上記の全てに当てはまるわけではないにせよ。
他には映画『ゴーン・ガール』のロザムンド・パイク……という声も上がるのだが、やはりここは『ゲーム・オブ・スローンズ』を例に引いて説明すべきだろう。シリーズの二大悪役、つまりラムジー・ボルトンとジョフリー・バラシオンは――境遇と実行力の違いはあるにせよ――揃ってサイコパスだ。あっという間に死んでしまったがヴィセーリス・ターガリエンもたぶんそうで、いわば「出来の悪いサイコパス」。心理戦の達人という意味ではピーター“リトルフィンガー”ベイリッシュも。実はオレナ・タイレルにも、そして意外だがマージェリー・タイレルにも、サイコパスの傾向が多少あると思う。
※ただし。原作のラムジーは醜悪な男であって、決して「ハンサムな悪役」ではない。またリトルフィンガーも原作ではドラマと違い、人畜無害に見える(こそ、ラニスター家にも信用された)という設定で、こちらも「魅力的」とは見えない人物なのだ。
そしてもちろん、『羊たちの沈黙』等のハンニバル・レクター博士。しかし「007ことジェイムズ・ボンドのほうが、レクター博士よりよっぽどサイコパス」という説もある。
確かにレクターの行動には、ある種の義侠心がうかがえるし、他者(クラリスやレディ・ムラサキ)に対する共感もある。一方のジェイムズ・ボンドは……確かに映画版では、大量破壊を企てるメガロマニアックな億万長者たち――ブロフェルドやヒューゴ・ドラックスら――に対する義憤を見せるが、原作ではもっと無感情で利己的な印象だ。その原作版ボンドのキャラクターを頂戴し、セクシズム要素を増大させたのが、コミック『The League of Extraordinary Gentlemen』に出てきたジミー・ボンドとなろうか。
これまでわたしが見聞した英語圏の専門家は、サイコパスと「自己愛性パーソナリティ障害(Narcissistic personality disorder)」との関連性を語ることが多い。そう、ナルシスティックなのである。「ひきこもりを経て自暴自棄になり、通り魔した挙げ句に自殺」というケースは、そのカテゴリーに入らないと思う。
それに、殺人犯だからと言ってサイコパスとは限らないし……あ! もしかして高須先生は「サイコキラー」と混同しているのかな? でも、それは快楽殺人を繰り返す殺人犯のことだよ。川崎殺傷事件の場合、加害者は快楽を噛み締める余裕もなく、自ら命を絶ってしまったではないか。
サイコパスに関する重大な事実。
ほとんどのサイコパスは凶悪犯ではなく、社会に潜む……どころか、社会で大活躍している。
ちなみに、よく「サイコパス向きの職業」と言われるのは、社長、警官、軍人、聖職者、弁護士等。うむ、『ゲーム・オブ・スローンズ』のキャラクターたち――貴族一家を仕切ったり、陰謀を巡らしたりする面々――にサイコパス性を感じるわたしの嗅覚は、それほど外れていないようだ。
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■What the fuck is 仲間?
●ドクター高須克弥の金言「突然仲間を殺傷し始めます」
仲間というのは……同じ生物種の別個体、ということか? だとしたら、この人は動物を知らんのだと思う。この際なので、高須自身を例にとって説明しよう。
彼の敵はユダヤ人だ。
商売ガタキだから、である。いわば同業他社だ。男性の肉体の、ある部分の皮を切除して財を成したのが高須。その術を何千年も前から実践してきたのがユダヤ人である。
同業他社が最大の敵。これを動物界に置き換えてみよう(生物学における進化の論理と人間社会のモロモロを互換する際には注意を要する。が、これに関しては正しいだろう)。
アニマル・キングダムにおいて、同業他社とはすなわち自分と同じ種の別個体である。同種生物ということは生態的地位も同一、同じ餌を巡って争う直接の競合相手だから。
「種の保存」なんて、誰も気にしていない。独り勝ちが最高だ。
では、同業他社を抹殺する気合に満ち満ちた動物界は、同じ種の生物どうしが殺しあう、骨肉の争いが頻発しているのか?
否。だって、同じ生物種の別個体ということは、知力・体力・暴力の全てが自分と同じ程度。そんなものと正面から争うのはリスキーである。つまり、willingだがableではない、ということだ。それよりも狩猟や餌集めに専念し、結果的に連中を出し抜く方が賢い。
しかし、チャンスがあればやる。つまり、willingでありableな時ならば。 いつぞやも書いたが、ライオンのケースを見てみよう。
ライオンの群れはメスと子どもたちだけで構成される。オスは2,3頭のチームで地回りを繰り返す存在だ。既存のオスチームが新参のオスチームに負け、追放となった場合……新参チームとしては、群れを乗っ取ったからには繁殖活動をしたいわけだが、育児中はメスが発情しない。そこで、新参チームは群れの子ライオンたちを皆殺しにする。
チンパンジーになると、もうメチャメチャである。群れと群れの関係は非常にホスタイルで、他の群れに乗り込んでの対決(殺し合い)もあるらしい。 さらには、自己集団内での幼児殺害! 幼児ではなくて幼獣か? とにかく、殺された子ども(オスが多い)は群れのメンバーの食料になる。奇妙なのは、チンパンジーが乱婚制であること。つまりどの子どもがどのオスの血を引いているか不明だから、殺害には繁殖上のメリットがないのだ。オスライオンの新参チームと違って。 わたしに類人猿嫌いの傾向があるのは理解してくれ。
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■ここで挿話:生まれる前に死んでしまうダニの話
ダニには卵胎生のものもいる。つまり、母の胎内で卵からかえる。子供たちはオスもメスも、母の胎内で活動を開始する。オスは姉妹たちを妊娠させる。こうしてメスは身ごもった状態で世に出る。
オスは? もう役目を終えて死んでいる。
結局、生物とは遺伝子の乗り物でしかない。そして、遺伝子が目的とするのは「自分の直系の子孫を増やす」こと。遺伝子自身は遺伝的多様性などは気にせず、独り勝ちを目指すのみ。兄弟姉妹だけで繁殖できれば、それに越したことはない。直系の子孫を増やしたいのだから。
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■伝説の「サイコパス遺伝子」を追え!
タイトルに【伝説の「サイコパス遺伝子」を追え!】と書いたが、この原稿でそんな遺伝子に踏み込んでデンデンするつもりはないのだ。
いろいろ読んでいくと、サイコパス(ソシオパスとの線引きは難しいが)になるか否かはある程度、遺伝によるものと見える……が、もちろんわたしは専門家ではない。
だが、タカスだってそうだ。
そういえば。
いつだったかAmazon.co.jpで、どこぞの歯科医の著書を見て衝撃を受けた記憶が蘇る。
「奥歯は宇宙からのメッセージを受信するための装置」等と主張する、破壊力抜群の本だったから。
つまりは虫歯を削ったり、親知らずを抜いたりといった現場(臨床)では機能するにしても、それ以外はパッパラパーな歯医者というものが世の中には存在するということ。そして、それでも生きていける。のみならず、書籍まで出して暴論を展開しても粛清されず、そこそこいい暮らしをしているかもしれない、ということだ。
タカスも同様。
包皮を剥いたり包皮を切ったりといった現場で機能し、金勘定に長け(それは一つの才能である)ていれば、動物学も精神医学も犯罪心理学も知らずに「サイコパス遺伝子を持った個体ができるのは人間以外の生物でも見られます。突然仲間を殺傷し始めます」と発言しても社会的抹殺を免れる……どころか、航空自衛隊を慰問(?)して歓迎されたり、金塊を盗まれてニュースになったり、楽しく過ごすことができるのだ。
「全てのリスクを背負う孤高の噺家」こと桂春蝶の名言「世界中が憧れるこの日本では、どうしたって生きていける」が身にしみる、そんな今日この頃である。
オタク的カテゴリーから学術的分野までカバーする才人にして怪人・丸屋九兵衛が、日々流れる世界中のニュースから注目トピックを取り上げ、独自の切り口で解説。人種問題から宗教、音楽、歴史学までジャンルの境界をなぎ倒し、多様化する世界を読むための補助線を引くのだ。