丸屋九兵衛

第51回:統一教会妻と好色半魚人の悲喜劇! 阿鼻叫喚の『ザ・ボーイズ』が描く現実

オタク的カテゴリーから学術的分野までカバーする才人にして怪人・丸屋九兵衛が、日々流れる世界中のニュースから注目トピックを取り上げ、独自の切り口で解説。人種問題から宗教、音楽、歴史学までジャンルの境界をなぎ倒し、多様化する世界を読むための補助線を引くのだ。

■統一教会の影

 アメリカではトランプの別荘がFBIのガサ入れで大わらわとなり、日本では統一教会がメディアの寵児となっている感がある、そんな昨今。見るべきドラマは、やはりAmazonプライムの『ザ・ボーイズ』だ。

 性悪ロックスターのようなスーパーヒーローが全米で200人強もおり、ヴォート(Vought)という会社が彼らをマネージメント&マネタイズしている。そのヒーローたちの中でも最強の7人が「ザ・セヴン」だが、その真の顔は「超常能力を持つ傲慢セレブリティ」集団(女性陣、スターライトとクイーン・メイヴを除く)。スーパーヒーローたちが道を踏み外した時、彼らをお仕置きするのが、一般人有志による仕事人グループ「ザ・ボーイズ」。メンバーは、ウィリアム“ビリー”ブッチャー、マーヴィン“MM”ミルク、フレンチー、キミコ、そして主人公のヒューイ・キャンベルだ。
 あまりにも普通すぎる名前の不利さを覆し、Amazonプライム史上最大のヒットとなったそんな『ザ・ボーイズ』。先ごろ配信されたシーズン3では、タイミングよく統一教会系のストーリーアークにも進展があった。
 まず、超人チーム「ザ・セヴン」の一員である半漁人ヒーロー「ザ・ディープ」は――身から出た錆ではあるが――謹慎生活に起因する心の迷いから、怪しい臭いがプンプンする新興宗教団体"Church of the Collective"に入信。教団側によって選ばれた女性カサンドラと結婚するのだ。やがて夫婦そろって脱会するのだが、その後のザ・ディープは妻の指示通りに行動する操り人形に……。

 統一教会的カルトを脱したものの、まだまだ自由になれないザ・ディープ(自業自得)! そして、陰謀論を扇動して、自分を救世主として演出するザ・セヴンのリーダー、ホームランダー(誰かさんみたい!)。今回は、ここに来て現実の映し絵としてますます注目すべき『ザ・ボーイズ』について書こうと思う。3年前、シーズン1視聴後にも書いたが、その時とは違う側面もあるから。
 なお、スポイラーはそこかしこにある。また、本稿で取り上げた劇中のセリフのほとんどはわたしが勝手に訳したもの、まず字幕とは一致しない。


■ホームランダーとはトランプである

 ザ・セヴンのリーダー、地球最強の人物がホームランダー。いわば「極悪版スーパーマン」である彼は、スーパーマン同様にアメリカの象徴である。
 と同時に、「アメリカの大義を唱えるが、本人は信じていない」という点でも、クリスチャン向けの集会には参加するものの本人は信仰心が皆無と見える意味でも、「酒もタバコもドラッグもやらない」という妙にストイックな一面でも、ドナルド・トランプに通じる要素が感じられるのだ。
 さまざまな状況に対応できるアドリブ能力が高い語り手であり、スピーチの最中に「世界最強の自分にも圧力をかける闇の組織」の存在を匂わせ、ザ・セヴン随一の良心派であるスターライトを「児童人身売買テロ組織関係者」と唐突に指名(もちろん証拠はない)。Qアノンが考える「ディープステートと戦うトランプ」路線を爆進しているではないか。
 シーズン3終盤で描かれる、街角で起こるホームランダー派とスターライト支持派の対立も、連邦議事堂突入を図るQアノン連中とその反対勢力、あるいはレイシストと「#BlackLivesMatter」派の映し絵と見える。

 だが、それはホームランダーが従来的な意味でのレイシストであることを意味するわけではない。
 ナチス直系、由緒正しき人種差別系スーパーヒーローのストームフロントがナチ仕込みのアーリア人種プロパガンダを語り始めると、ホームランダーは無視したり呆れたり話を逸らしたり。ストームフロントの理論に共感していないことはほぼ確実と思える。理由は、ホームランダーが善人だから……ではなく、彼にとって自身の人種は白人ではなく超人だから、だろう。見下す対象は非白人ではなく、非超人全員なのだ(ホームランダーは「彼らはただのヒューマン」という表現をよく使う)。
 ゆえに、非白人に対してもオープンに接しようとする……のだが、そこには常にぎこちなさがある。トランプが無理して"my African American friend"等と発言するときにも似た。


■ホームランダーとはおじさんである

 シーズン3で判明したのがホームランダーの生年。それは1981年だ。だからまだ41歳なのに、ホームランダーはとてもおじさんである。実年齢はずっと上(100歳ほど)だが、見事なほど21世紀に適応したストームフロントからシーズン2の時点で指摘されていたことではあるのだが。
 まず、ホームランダーはSNSをやらない。そのため、本人がつぶやいたはずのツイートも、実は専属SNS担当者であるレベッカ・ブッチャーが書いていたわけだ。
 これがおじさん性というものであり、時としてそれは致命的である。SNSに疎いがゆえに、自分が相手を脅迫している音声がインスタライブで全世界に生中継されていることも、手遅れになるまで気づかないのだから。

 その時代錯誤なおじさん性に起因する、悪意がない(がゆえに悪質な)差別――名古屋の河村たかし市長に近いかもしれない――はシーズン2から目立っていたが、ここにきてネクスト・レヴェルに到達する。
 シーズン3初頭でザ・セヴンの新メンバー候補となったスーパーソニックはメキシコ系アメリカ人ヒーロー。このスーパーソニック相手に、無神経なおじさんであるホームランダーは何を言ったか? 「君のチョリソ・ピカンテで審査員たちを釘づけにしてやれ」である。
 ええと……まず、他文化の人や事物を勝手に料理や食材に喩えてはいけない。ジャッキー・チェンを見て「ミスター・チャーハン」と呼んではいけないし(ただし『ラッシュアワー』でのクリス・タッカーのセリフは"Mr. Rice-A-Roni"で、これが事態をややこしくする)、韓国の戦闘機F-15Kを「キムチイーグル」呼ばわりするのもダメ、ドイツ人をキャベツ(kraut)扱いするのも不可である。
 加えて。男性のアピールを棒状の何かに喩えるのは、まま起こること。しかし、ネイティヴアメリカンの血を引くラッパーが「俺のトーテムポールでお前らのドタマへこましたる」とラップすることが許されるのは、それが本人の発言だからだ。
 件の「チョリソ・ピカンテ」発言を受けてスターライトは「なんと悪趣味な」と露骨に呆れる。一方、その言葉を向けられたスーパーソニック本人は、驚きを隠せない様子だった。なぜ? この2020年代にあって40歳ちょっとのアメリカ人の口から出てくるには、あまりに無邪気すぎるオールドスクールなレイシズムだったから、であろう。
 やはりホームランダーはおじさんなのである。肉体年齢はともかく、行動そのものがおじさん構文に近い。

 ホームランダーのメキシカンいじりはチョリソ・ピカンテに収まらず、ザ・セヴン入りしたスーパーソニックを歓迎する席ではわざわざメキシコ料理を用意して「このビルで一番のタコスだ」とご満悦の様子だった。これまたよろしくない、というか、余計なお世話である。
 メキシカンだからタコスをどうぞ。黒人だからヒップホップ好きだよね。チャイニーズだから出前の人かと思った。
 もっとも、メキシカン相手の料理系レイシズムはホームランダーだけではなく、ヴォート社従業員も同罪である。スーパーソニックの今後の人気を予測する際に「サルサ(ソース)がケチャップより人気あるって知ってた?」と言い出すのだから。


■80年代の残り香

 シーズン3で登場したソルジャー・ボーイは不思議な人物である。「不思議な人物」とは、「どう考えても悪人だが、否定できない磁力を持つキャラクター」ということだ。
 アメリカ軍との繋がりが強く、盾を武器にするスーパーヒーロー。だから、もちろん原型はキャプテン・アメリカなのだが、『ザ・ボーイズ』のヒーローらしい暴力性が際立つ(盾でグサグサと惨殺、等)。それでも、演じるJensen Acklesの立ち居振る舞いのおかげで、とても魅力的だ。

「ホームランダー以前のホームランダー」とも形容されるソルジャー・ボーイは、公的には1984年に死亡している。実際にはソ連軍によって連行され人体実験の対象になっていたわけだが、以降の数十年間を実験室で過ごしてきたため、1980年代アメリカが持っていた白人男性中心のメインストリーム価値観を2022年の我々に直送で届けてくれるタイムカプセルとして貴重な存在なのだ!
 前時代的なミソジニーがある。家父長制幻想とマッチズモがある。カジュアルなレイシズムもある。
 特に、ソルジャー・ボーイが「ハンバーガーに"chop socky oriental sauce"が付いていないのはなぜだ?」と訝るシーン。ヒューイが「それが廃止になったのは、いろいろと真っ当な理由があって」と答えた通り、このソース名は何重にも間違っていて説明しづらいが、80年代アメリカにおける我々エイジャンが絶対的少数派であり、引用と揶揄が可能なノヴェルティ的存在だったのだ……と教えてくれる。
 シーズン1でキミコを見たヒューイの父が「オリエンタル・ガール」と発言し、ヒューイが「エイジャンだよ!」と慌てて指導するシーンがあったことも、合わせて思い出そう。

 80年代から現在までの国際関係の変遷も、ソルジャー・ボーイの言動が思い出させる。
 冷戦時代末期までの記憶しかない彼にとって、アフガニスタンでゲリラ活動を展開するムジャヒディンとはアメリカの友にして同盟者。「いいやつら」と、彼らとの交流を懐かしむように語るのだ。CIAにバックアップされていたはずのムジャヒディンがいつしかアルカイダとなり、アメリカに仇なす存在に転じたことを、ソルジャー・ボーイに教える場面はなかったが。

 一方で、ソルジャー・ボーイは「セックスのヴァーリ・トゥード」とも呼ぶべきスーパーヒーロー乱交大会"Herogasm"を創始した人物だけあって、同性愛には寛大なのではないか……という説も出ている。
 約40年ぶりに歩くニューヨークの街角で、思いがけず目撃した男性カップルのキスにソルジャー・ボーイは笑みを漏らすのだ。その笑いが皮肉なのか、心底からのものなのかは不明だが。
 興味深いのは、ソルジャー・ボーイがビル・コズビーを心から敬愛しているということ。「アメリカのファーザー・フィギュア」と称えている。しかしコズビーは、善人面の陰でセクシュアル・プレデターだったと伝えられる男だ。「コズビーにものすごく強い酒を飲まされた」と笑いながら語るソルジャー・ボーイは、自身でも知らないうちにコズビーの犠牲となっていたのでは……。

 ソルジャー・ボーイと共に、80年代と現代との落差を示してくれる案内人。それが「ザ・レジェンド」というキャラクターだ。
 かつてヴォート社でヒーロー担当上級副社長の地位にあったザ・レジェンドさんは、ヴォート社重役らしからぬ良心と道徳観の持ち主だ。どうやら公民権運動サポーターでヴェトナム反戦派だったようだし、このドラマには珍しい良識派のおじさんなのである。
 と、同時に。いろいろな物事がワイルドだった時代を彷彿させる武勇伝の主でもあるのだ。ジャクリーン某やケリー某ら、「有名な女性たち(主にアクター)と寝た」云々という自慢は枚挙に遑がない。それどころかマーロン・ブランドともベッドを共にしたというし、ザ・ボーイズの面々に向かっても「誰が攻め、誰が受けだ?」と質問するのだ。
 おまけに、その質問の直後には鼻から豪快にコカイン吸引! リック・ジェイムズ的というか「スタジオ54」感が匂い立つ、享楽的な80年代を体現した人物なのである。

 ドラッグといえば。
 レーガン大統領時代、CIAがブラック・コミュニティにコカイン(クラック)を蔓延させる計画に関わっていた件が語られる回で、ザ・ボーイズのMMが着ているのは――彼が何を着るかが毎回楽しみで仕方ない――N.W.AのTシャツなのだ! クラック稼業なくしてN.W.Aなし!


■40年代の残り香

 これほど出来がいいドラマにもツッコミどころは多々ある。例えば、シーズン2でストームフロントの正体とキャリアの長さと実年齢(1919年生まれ)を知った主人公たちは驚いていた。だがシーズン3で描かれたように、ソルジャー・ボーイ(やはり1919年生まれ)が第二次世界大戦に従軍してから長く活躍し、80年代の失踪寸前(60代半ば)まで若々しかったことがアメリカの常識だとしたら、ストームフロントの年齢に驚くのはおかしいではないか。
 しかし、ここで取り上げたいのはそんなことではない。

 『ザ・ボーイズ』は、世の「スーパーヒーロー」作品もろもろを引用&パロディ化しながら、ヒーローが実在する世界の諸相を描くことによって、我々が生きる現実のディストピア性をも伝える物語だ。
 このような試みは『ザ・ボーイズ』が最初ではない(し、最後でもない)。特に重要な先達と思われるのが、コミック&映画の『ウォッチメン』と、ジョージ・R・R・マーティン主導の小説シリーズ『ワイルド・カード』だ。そして両作とも「スーパーヒーローが実在したら、20世紀はどう変わっていただろう」のwhat ifを追求した歴史改変SFでもある。
『ウォッチメン』のPOD(point of divergence: 歴史分岐点)は1938年、『ワイルド・カード』のPODは1946年。対して、『ザ・ボーイズ』の世界でスーパーヒーローを生み出す薬物「コンパウンドV」が開発されたのは1939年のようだ。
 歴史分岐点では『ウォッチメン』の1年後、『ワイルド・カード』の数年前。しかし『ザ・ボーイズ』の世界は、その両者よりずっと現実の歴史に近い。映画『マトリックス』は何度か言及されるし、ジミー・ファロンのトーク番組もある。パットン・オズワルトも顔を出すし、過激なセクシー衣装の代名詞としてニッキ・ミナージの名も引用される。
 そんな『ザ・ボーイズ』世界において、1980年代のみならず、そこに至るまでの数十年の語り部としても機能しているのが、やはりソルジャー・ボーイだ。第二次世界大戦中の1944年、コンパウンドV実験に志願してアメリカ初のスーパーヒーローとなった彼は、ノルマンディー上陸作戦に参加し、連合軍に勝利をもたらしたことになっている。
 その後は、政府御用達の非合法工作員として公民権運動やヴェトナム反戦活動を弾圧し、ケネディ暗殺の実行も担ったという。少し遡れば、マッカーシーの赤狩りにも関与していたのでは……。
 その傍ら、おそらく40年代末から80年代半ばまで、シンガーとしてもアクターとしても活躍し、長らくポップ・アイコンの座にあったようだ。つまりソルジャー・ボーイとは、「第二次世界大戦に従軍したエルヴィス」のような存在なのだな。その活動期間が前にも後ろにも長く伸びたバージョンのエルヴィス。ただし、先に挙げたザ・レジェンドさんによれば「ソルジャー・ボーイが歌うとどんな曲もダメになる」らしいが。

 そんなソルジャー・ボーイが、ハンバーガーを食べる合間にアンフェタミンを鼻から超絶吸引するシーン。愛用ドラッグがコカインでもヘロインでもないのは、アンフェタミンが「兵士のドラッグ」であり、第二次世界大戦時は特にパイロット用の刺激剤として重宝されたから。
 ここで『ザ・ボーイズ』からは離れるが、意外なアンフェタミン使用者を紹介しておく。それは007だ! 原作のみだが、「そろそろ暴れなアカンな」という場面の直前で、彼は粉末やら錠剤やらをガンガン摂取! 考えてみればボンドだって本来は1917年〜1920年頃の生まれ、第二次世界大戦に従軍した身なのだ。


■世界はヴォート社だ!

 ヴォート社にも触れておかねばならない。
 同社は、社会改革に熱心な企業……では全くなく、むしろ正反対。寄らば大樹の陰、吉●興●のような権力の走狗である。
 だが、この時代のアメリカで人気商売を続けるためには、「多様性の味方」というポーズだけはとらないと。そこが日本との大きな違いであり、そんなヴォート社の努力が一望できるのは、シーズン3エピソード2にあるヴォートランド(VoughtLand)なるテーマパークのシーンだ。

 ホームランダーによる容赦ないアウティングの副産物というか怪我の功名というか……とにかくレズビアンと公表されたクイーン・メイヴ(実際には両性愛者)の知名度を上手く使って、"Brave Maeve's Inclusive Kingdom"と銘打たれた一角。インクルーシヴなので、多様性と共生と共存がテーマなのである。
 そこにはブラック・パワーの象徴である突き上げたコブシが目印のサンドイッチ屋さんが"BLM BLTs"という看板を掲げている。「#BlackLivesMatter」なベーコン・レタス・トマト・サンド! "LGBTurkey Legs"という店の看板は、虹色の旗を掲げたシチメンチョウ(のはずだがダチョウに見える)がこんがりフライにされた自分自身のモモ肉を持っている図。
 そんな遊園地で、ザ・ボーイズの一人、フレンチーはベンチに座った子供たちが食べているものを見て、半ばあきれつつ驚く。「ドーナッツで挟んだハンバーガー?!」と。こんなカロリー過多な食べ物がインクルーシヴ・キングダムで提供されているのには理由がある。これは通称"Luther Burger"、今は亡きルーサー・ヴァンドロスが「発明した」あるいは「好んで食べていた」という伝説を持つメニューだ。そのルーサー、没後に友人たちが明かしたところでは、噂されていたとおりゲイだった、とか。彼にまつわるメニューがこんなテーマパークにあるのは、音楽に通じた『ザ・ボーイズ』制作陣によるちょっとしたトリビュートなのだと思う。
 しかし! このようにインクルーシヴ・キングダムが描かれる30秒弱の中で最も気になるのは、"Woke Wok"という中華料理屋台だ。まず、wokとは中華鍋のことだが、この単語は残念ながらある種のオリエンタリズムを漂わせるもの。ゆえに、それをもって中華料理をレプリゼントするならば、主体が我々アジア系でならねばならない。待ってくれ、ヴォート社経営陣にアジア系が目撃されたことが一度でもあるだろうか?
 さらに、wokeも。リベラル〜レフトな人々の思想や行動を指す言葉だが、当のリベラルは(少なくとも今では)使わない。つまり他称であり、好んで使うのはリベラルを揶揄したい右翼、共和党、FOXニュースだ。いくら語呂がいいとはいえ、"Woke Wok"というネーミングに行き着くセンスに、ヴォート社の本質が透けて見えるような。
 そもそも、先の"BLM BLTs"だって、「#BlackLivesMatter」運動に何かしらの形で貢献しているのか? "LGBTurkey Legs"なるターキー屋がLGBTQにどう寄与している? 巨大企業がマイノリティに擦り寄るそぶりを見せるが実際は搾取するだけの地獄絵図、それこそがヴォートランドではあるまいか。毎年6月(日本では4月か)になると開花する「ピンクウォッシング」「LGBTマーケティング」に通じる。

 マーケティングといえば。
 5年前、公開されるや否や、万人に愛される非難轟々クラシックと化したケンダル・ジェンナー出演のペプシCM。「#BlackLivesMatter」に関連づけて清涼飲料水を売ろうと思ったペプシ、これで世間を騙せると本気で考えたのだろうから天才的である。全ての大企業はヴォート社なのか?

 

『ザ・ボーイズ』シーズン3エピソード4では、Aトレインが架空のドリンクの宣伝でこのペプシCMを見事に再現してくれている。本当に完成度が高いので、見比べてほしい。

 そのAトレインと対立する白人スーパーヒーロー「ブルーホーク」はブルー(警官を象徴する色)なうえにホーク(タカ派)というネーミングそのままの暴力警官的キャラクター。「人をレイシスト呼ばわりするやつがレイシストだ!」と主張する彼が黒人市民を投げ飛ばしながら、「#BlackLivesMatter」に対抗して「#AllLivesMatter」(全ての命が大切だ……と真っ当な発言に思えるが、実際はレイシスト側による詭弁)、さらに「#SupeLivesMatter」と叫ぶ展開も興味深かった。これ、警察と関係者が「警官だって自分の命を守る権利がある」と主張し、主に黒人市民を殺すことを正当化する「#BlueLivesMatter」のパロディなのだ。
 ……とまだまだあるが、今回はこのあたりで。