加納 Aマッソ

第68回「女3人ってむずいんちゃうん?」

 私にとって初めてのレギュラー番組「トゲトゲTV」が終了した。
 麻貴ちゃん(3時のヒロイン)とサーヤ(ラランド)と3人、思えばあっという間だった。
 番組は、「いま勢いのある女芸人3人が」という触れ込みで始まったように記憶しているが、私は2人と比べて圧倒的にテレビの仕事が少なかった。複数のコンテンツに手を出して勝手に慌ただしくしていたものの、番組のオファーというものは数えるほどで、いつも疲れた様子で収録にやってくる2人を見ては、「早くこうならなくては」と身を引き締めた。いつになく女芸人に追い風が吹いた時代だった。この番組はその一環。レギュラーに浮かれてはいけない。
 各々のコンビでネタを書いている、いわゆるブレーンの3人だ。麻貴ちゃんと私は芸歴10年を超えていた。それぞれ、自分が面白いと思っていることはすでに確立していて、それは大きく変化した印象はない。しかしせっかくのレギュラー番組だから、時間と環境が許すなら、一緒に企画を考えて、どんどん知らない感情になってみたかった。2人がこの番組をどう位置付けていたかはわからない。いくつかの心残りはあるものの、若手ディレクターが精魂込めてつくる番組に出演できたのは嬉しかったし、楽しかった。

 番組が終わった今、一番印象に残っているのは楽屋の光景であるから不思議だ。麻貴ちゃんは「つぼみ大革命」という女性アイドルをプロデュースしていて、サーヤは「礼賛」というバンドのボーカルをやりながら曲作りにも関わっていた。2人はドラマにも出演していた。そんな2人と交わす近況報告は、芸人楽屋の雰囲気とは少し違った。みんなお互いの活動に興味があって、「すごいなあ」とよく言った。そして、いろんなことにアンテナを張りながら、私たちはこの番組でたまたまクロスしているのだと実感した。たまたまであるなら、この時期に終わるのももしかしたらそういうことなのかもしれなかった。
 最後の収録の日、私が小説の執筆期間中であることを伝えると、サーヤが「どんな話を書いてるんですか?」と聞いてきてくれた。何気ない会話かもしれないが、なぜだかとても嬉しかった。芸人が芸人に「どんなネタを書いてるんですか?」とは聞かない。けれど常に何かにチャレンジしている人ならではの優しさだと感じた。最後の放送が終わった3日後には、麻貴ちゃんが演出を務めたつぼみ大革命のライブを観に行った。メジャーになることを目指すエネルギー溢れるステージに圧倒され、「売れたいねん」という真っ直ぐな歌詞に、不覚にも泣いてしまった。麻貴ちゃんは、女の子の魅力をたくさん知っていた。
 性別で括られたことに対する思いは、全員何かしら持っていたと思う。しかし、自分自身に可能性を感じ続けていくように、この3人で何かできるのではないかと希望を持てたこと、それが笑いであったことは、とても幸運だった。

 女3人ってむずいんちゃうん? どうせ仲悪かったんやろ? 

 そやねん、もう喧嘩喧嘩で大変やったわ。ののしり合って、ヨギボーで殴り合ったりな。まあでも、50年もやったらそりゃ色々あるよ。

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