加納 Aマッソ

第75回「結局フードコートが一番楽しいよな〜」

 芸人仲間数人と雑談していた時、どういう話の流れだったか、一人が「結局フードコートが一番楽しいよな〜」と言った。それに対し、その場にいた私を含む全員が「わかる〜」と相槌を打った。直後、自分の胸にじんわりと罪悪感が湧いたことに気がつく。話はそのまま、フードコート、という言葉を聞いて各々が想起した思い出にスライドした。
「確かに、友達と車で旅行行ったときとか、サービスエリアとか、な、楽しかったよな」
 うん、大丈夫。私は慌てて記憶を探り、脳内で○をつけていく。あ、ロケの休憩時間に行ったこともあったな。スタッフさんが「なんでも好きなもの頼んでください」って言って、大げさに「やったー!」なんてはしゃいだりして。あれも、楽しかったといえば楽しかったな。大丈夫大丈夫。
 強引な答え合わせをよそに、目の前で飛び交っているのは予想した通り、「部活帰りにたむろした」だの「家族で行ったときは友達に会うの恥ずかしかった」だの、明らかに子どもの頃や青春時代の思い出であった。「見つけたらテンション上がって行っちゃうのよな〜」は、当時の感情をなぞっているにすぎないことを暗にこちらに伝えていた。「そもそもフードコートって、」と大きく捉え直す隙のないまま、話題はもう「色々食べてしまう」から、「痩せたいが最近代謝が落ちてきてる」へ、そして「年齢」に切り替わった。

 その日のうちに、私は反省と分解を試みた。まず反省。はい、私は正直、フードコートのことをそれほど好意的には思っていません。なのに、その場に合わせてみんなと同じ価値観を共有しているかのような態度を取りました。次からはこのようなことがないよう、気をつけたいと思います。
 反省できた。次に分解。なぜそのような嘘をついたか。

・フードコートを好意的に捉えていると思われたかった
・提案者が「あるある」というジャンルに強いため、この発言も「わかる〜」と気軽に返すに値するものだと無意識に判断した

 さらに分解してみる。なぜ好意的に捉えていると思われたかったか。

・「好きではない」と言うと、お高くとまっていると勘違いされることを懸念した
・自分自身に「フードコートは地方によくある」という思い込みゆえに、「地元にフードコートがない」と伝える行為が、都会自慢にならないかと心配した
・フードコートどころか外食すらろくに家族と行った経験がないので、フードコートを否定することで貧乏エピソードに発展する可能性が浮かんだ
・「フードコート楽しい」と100%で思える適正年齢にフードコートを経験していることは何かのアドバンテージになっているはずだと思っており、自分にはそれがないと恥じている

 分解できた。自分の感情にここまで向き合ったのは、とてもえらい。えらいので、フードコートの嫌いなところを並べる権利がある。

・混んでてムカつく
・店の選択肢多いのがストレス
・「席とっておくから先に買ってきていいよ」がいちいちだるい
・呼び出しベルうるさい
・トレー返す場所分かりにくい
・紙コップ小さくてやわらかくてやる気ない
・入り口どこやったか混乱させてくる
・どっち向いて食べても顔を指されるリスクが高い
・テーブル汚い率高い
・トイレ遠すぎ
・こんなに短所あるのに好かれすぎ

 良いところも書く。

・これだけ言ったのに今ちょっと行きたくなってる

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