絶叫委員会

【第118回】悩み相談の練習

PR誌「ちくま」8月号より穂村弘さんの連載を掲載します。

 深刻な人生相談とはひと味違う、どこかユーモラスな悩み相談が読み物として登場したのはいつからだろう。中島らもの「明るい悩み相談室」からか。それとも、もっと前からあったものなのか。ともあれ、私のところにもその種の企画で、読者から寄せられた相談に対する回答の依頼が届くことがある。だが、これが難しい。相談者にちゃんと納得されて、それ以外の読者にとっても読み物として楽しめる。そんな答が望ましいとわかっていながら、どうもセンスがないというか、普通に真面目に回答してしまうのだ。
 そこで練習してみることにした。具体的には、まず悩み相談の質問部分だけを見て自分なりに答を考える。次に、それを本物の回答と付け合わせてみる、というやり方だ。たまたま町内の掲示板に、近くの高校の学校新聞らしきものが貼ってあり、そこに悩み相談が載っていたから挑戦してみた。

 ルーズソックスをはきたいのですが、周りがはいていないのでためらわれます。もう一度ルーズソックスの流行をつくりたいと思うのですが、どうしたら良いでしょうか
                                                                                                  (2年女子)

 仲の良いお友だちと相談して、一緒に履くのはどうでしょう。うまく火がつけば、そこから「流行」になるかもしれないし、そこまでいかなくても「周りがはいてないのでためらわれます」というハードルはクリアできると思います。万一お友達に賛同者がいない場合は、一人で履くことになるけど、休日を選んでどこかの町を歩いてみるというのは? 少なくともかつてのルーズソックス世代の女性には懐かしがって貰えると思いますよ。

 どうだろう。真剣に答えてみたけど、なんか普通というか、相談者自身も思いつく範囲の回答って気がする。ちなみに、学校の先生のものらしい本物の回答はこうだった。


 回答 数学科 れんさん
 ルーズソックス、いいですね。私が現役の高校生であった九〇年代中頃は、女の子であれば誰でもルーズソックスを履いていました。三つ年下の私の妹も然り、当時は実家の庭の物干し竿には長い長いルーズソックスが何本も風に揺れ、それに飼い犬が器用に飛びついて(噛みついて?)全部地面に落とした挙句、どうだと言わんばかりにその上に見事にウンチを乗せ、それを見た我が妹は「履いていくルーズがない!」と発狂したことを思い出します。
 さて質問の回答です(以下略)。

 なんて長い前振りなんだ。でも、ここまででも充分面白い。当時のルーズソックスを巡る状況が活写されている。比較して、私の回答に足りないものはなんだろう。パッションか、弾けっぷりか、それともルーズソックス体験か。

PR誌「ちくま」8月号

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