佐藤文香のネオ歳時記

第31回「ポタージュ」「肩こり」【冬】

「ダークマター」「ビットコイン」「線状降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・冬 分類・生活】
肩こり

傍題 肩凝る 首凝る

 肩こりなんて年中だが、寒くなって筋肉がかたくなると一層ひどくなるという方は多いのではないだろうか。私はマジでそれである。つい先日も、もう強い湿布なしでは日常生活が送れないレベルになったので、意を決して整形外科へ行き、レントゲンを撮ってもらった。そしたらストレートネックのせいで頸椎の下の方の骨が圧迫されて変形しており、そこにスマホやらPCやらでの日々の負荷が重なって、非常に辛いことになっているのだとわかった。これだと単なる肩こりを超えているのだが、こういう場合も温めたほうがいいらしい。具体的には使い捨てカイロをマフラーに仕込んで首に巻くのがいいと言われた。「肩こり体操」の冊子ももらって帰った。首に筋肉をつける必要があるようだが、首に筋肉ってつくのだろうか。
 以前これよりさらに辛かったとき、一回1万円もする整体に通っていたことがある。高ければ効く気がしたからだ。たしかに、やってもらったあとは体が軽くなった。ただし、その整体の先生はある新興宗教の信者で、待合室にはずらっと教祖の方のご著書が並んでおり、毎度施術の前にお祈りまであった。私はその宗教には興味がなかったが、まぁ腕もいいしネタとしてはアリかなくらいの気分で通い続けた。しかし、あるとき部屋のリニューアルが行われ、要所要所にパワーストーンと植物が置かれるようになってしまった。自分が支払ったお金が、植物ならまだしも、いかにもありがたげなパワーストーンになっていると思うと途端に理不尽な気持ちが湧いてきて、以来その整体には行かなくなった。その次に通った整体は、体の痛い部分を揉んでくれるのと、痛みのある部位に電気を通すパットのようなものを載せ、その上から「あっため」と呼ばれるあったかいパットも背中に置いておく、というのを流れ作業でやってくれるところだった。保険適用だったので一回あたりの料金は大変お安かったが、まわりは全員老人だったし、効いているかが謎だったのでやめた。どちらの整体も、冬ごろ行き始めて、夏にやめた。やはり寒い季節がより辛い。寒いと古傷が疼いたりもする。
「肩こりや鴨が歩いて水を出る」という句をつくったことがあり、これは一応「鴨」が冬の季語だが、どちらかといえば「肩こり」の方により作者の実感がある。川沿いを散歩しながら肩をまわし、鴨を見ていた。鴨にも肩こりはあるのだろうか。肩こりで空を飛ぶのは大変そうである。

〈例句〉
肩こりといふ集落やのみぐすり  佐藤文香
揉めば治る君の肩こり可愛い君
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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