DHCが「大学・翻訳・センター」の略だと知った時はショックだった。
ず~っと、「ドモ・ホルンリンクル・コーポレーション」か何かだと思っていたからだ(ただし、ドモホルンリンクルはDomohorn Wrinkleと区切るべきだし、そもそも他社製品)。
今となっては「大本営・発表・カンパニー」の方がふさわしいような気さえするが。
とはいえ、思想を持つのは自由である。
今回取り上げるのは、そのDHCの吉田会長がiRONNAに寄せた独占手記『「ニュース女子」騒動、BPOは正気か』なのだが、彼が振りかざすイズムの是非を問うものではない(まあ基本的には)。
むしろわたしは、その主義主張の立脚点である超絶トンデモな疑似科学を突っついてみたいのだ……前回、竹内久美子による睾丸研究を槍玉に挙げたのと同様に。
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わたしが注目したのは、この最終ページ。
https://ironna.jp/article/9559?p=3
その最後の数段落を引用しておく。
最後に、なぜ私が在日帰化人に危惧しているのか、という話をします。日本人は姿形だけ見ると中国人や韓国人に似ているので、日本人のルーツは朝鮮半島を渡ってきた渡来人だと思われがちです。
ところが最近、遺伝子の研究により、日本人は彼らとは全く関係のない民族だということが分かってきました。縄文人の遺伝子を解析したら、他のアジア人とはまるで違う人種であったというのです。日本人の祖先は、約2万年前にシベリアから、陸続きだった北海道を経由し、日本列島に広まっていったのです。
多少は南方や朝鮮半島から来た移民もいたようですが、その数は取るに足らないほどで、圧倒的多数がシベリアから南下してきたようです。アジアの中でも唯一日本人だけがヨーロッパ人に近い民族だったというのです。顔は似ていても、どうして中国人や韓国人とはこうも違うのだろうと思っていたことが、ここへきてやっと氷解しました。
見えない絶対的な力を仮に「神様」と称すれば、神様の考えていることはただ一つ「種族維持本能を生きとし生けるものに与える」ということだと思います。これは犬に例えるなら、コリー犬はコリー犬だし、ブルドックはずっとブルドックです。何百年たっても見分けがつかないような犬にはなりません。
我々は全くの異人種である韓国人と仲良くすることはあっても、そして多少は移民として受け入れることはあっても、決して大量にこの国に入れてはいけないのです。ましてや、政権やメディアを彼らに牛耳られることは絶対に避けなければなりません。
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この破壊力。
多少なりとも科学的な知識と論理的な脳みそがあればツッコミどころが浮かんできて仕方ないはずだが、真に受けている人がいるらしいから、笑っていいんだか嘆いていいんだか。
以下、問題箇所――それも、あえて「縄文人の遺伝子」部分は外して――を個別引用した上で書いてみる。
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(1)神様の考えていることはただ一つ「種族維持本能を生きとし生けるものに与える」ということ
「種族維持本能」という書き方がトリッキーだが、「自己が属する生物種全体を維持する本能」と理解しておく。だが、そんな本能は存在しない。
すまんな、「種の保存」は幻想なのだ。
実際のところ、生物とは遺伝子の乗り物でしかない。そして、遺伝子が目的とするのは「自分の直系の子孫を増やす」こと、それのみである*。
その時、一番邪魔になるのは同じ種族の別個体だ。利害が対立するライバル以外のなにものでもないから。遺伝子自身は――遺伝的多様性などは気にせず――独り勝ちを目指す。
同業他社を抹殺する気合満々なのだ。
それが証拠にライオンを見たまえ。
ライオンの群れは(実は)メスと子どもたちだけで構成される。オスは二、三頭のチームで地回りを繰り返すロクでもない存在で、いわば社外取締役を務めるヤクザみたいなものだ。既存のチームが新参のチームに負け、追放となった場合、群れでは凄惨な出来事が起きる。群れを乗っ取ったからには繁殖活動をしたいわけだが、育児中はメスが発情しない。そこで、新参チームは群れの子ライオンたちを皆殺しにするのだ。
「種の保存」なんて、誰も気にしていない。
ただし、キツネは同族殺しを忌避する。実力行使に出ることはまずない。キツネにとってのバトルとはすなわち、向かい合って口を開くこと。口の大きさで勝負が決まるのだ。
You can't keep a big mouth down.
*例外として、社会性動物(主に昆虫)には血族を助ける非繁殖個体がいる。
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(2)コリー犬はコリー犬だし、ブルドックはずっとブルドック。何百年たっても見分けがつかないような犬にはなりません
……ここまで豪快な勘違いの場合は、どこから手をつけたものやら。
まず、「イヌはオオカミの亜種でしかない」ということを理解してほしい。
「イヌはオオカミの親戚」と言われることがあるが、それは正確ではない。生物としては同じ種で、「オオカミ>イヌ」。イヌはオオカミの中に含まれるということだ。
ほぼ同一デザインと見えるオオカミたちに対して、イヌがやたらバリエーションに富んで見えるのは、人類による品種「改良」の成果である。つまり、コリーもブルドッグも、元はオオカミだった。それが――特にブルドッグは――面影もないほどに変貌を遂げたわけだ。
ブルドッグとは、中世〜近代初期のイングランドの皆さんが愛好していた優雅な娯楽「ウシ(=ブル)虐待あそび」のために作られた亜種。19世紀にはウシ虐待が禁じられたため、その後は、番犬もしくは愛玩・鑑賞目的で飼われるようになった。今では、怪我しやすく、暑さに弱く。胎児の時点で頭骨はビッグサイズだが母親の骨盤は通常サイズなため、出産時は帝王切開がほぼ必須だ。
酷な言い方をすると、「何百年か経って見分けがつかないような」姿となったオオカミの成れの果てなのだ。
話は逸れるが。
特定の形質を伸ばすand/or維持するのが品種「改良」や血統書の基本にして極意である。なので近親交配による繁殖が頻発。ゆえに、遺伝子の多様性はめちゃめちゃ狭く、それに起因する遺伝疾患の顕著な個体も多々見受けられるという。
血統書付きであることが、いかに不健康か。それがどれだけの不幸を個々の動物にもたらしているか。そして、そもそもブリーディング業者やペット産業がいかほどに歪んだものであるか。詳しくは下記リンク「ペットショップにいくまえに」をお読みください。
http://bikke.jp/pet-ikumae/
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先の「種族維持本能」には、決定的な誤りがもう一つある……これまた、吉田会長が言う「種族」を生物種と解釈した場合だが。
人種も民族も「生物種」ではない。我々人類は、南アフリカのコイサン(かつてのブッシュマン)から北極地帯のイヌイットまで、すべて含めてホモ・サピエンスという一種類の生物だから。父母の人種が異なる場合、その子は「混血」と呼ばれるが、子供ができること自体が「人類とは一種類の生物」という証明であり、その意味で混血とは純血の同義語となる。
スモーキー・ロビンソンが言ったように、「レース(人種)なんて一つしかない。それはヒューマン・レース(人類)」なのだ。
そんなホモ・サピエンスが何万年もかけてさまざまな環境に適応して分岐した結果、外見や体質、文化で分類されうる存在となった。これが「人種」や「民族」といった概念である。それを「最初から分かれていたものを混ぜるなんて」と捉えているとしたら……その勘違いぶり、天動説と競えるレベルだぞ。
さらに。我々人類は進化史の初期にカタストロフに遭遇し、絶滅寸前のところまで減少したらしい。辛くも生き延びたわけだが、少ない個体数から再出発したこともあって、他の生物と比べて遺伝的に極めて均質、多様性に乏しい。遠く隔たっているように見える2個体、例えば先の「南アフリカのコイサン」と「北極地帯のイヌイット」(見た目はめちゃ違う)も、隣接する二つの山に住むゴリラ2匹(見た目はそっくり)より、遺伝的には近いという。
もう一度、「コリー犬はコリー犬だし、ブルドックはずっとブルドック」の部分について書いておく。
実際には、異なる犬種間の交配はなんぼでもある。なのに吉田会長は、神の名の下にそれを否定するのだ。しかもこれは「全くの異人種である韓国人」云々(デンデン)へのプレリュードであるからして、「異人種間の交流も同居も結婚も認めん!」と宣言するかのごとき態度ではないか。
つまりは、ちょっとしたアパルトヘイト。ぜひ、トレヴァー・ノアの意見を聞いてみたいものだ。
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そこで。
DHCの吉田会長には、S. M. Stirlingによる歴史改変小説〈The Domination of the Draka〉シリーズを勧めたい。
南アフリカ共和国とナチスドイツとイスラエルが合体したような最凶・最悪の人種差別・拡張主義国家「ドレイカ」が世界を侵蝕していく、とってもディストピアンな物語である。
邦訳は出ていないので、会長が英語を読めるなら、の話だが。
あ、いや。こんなもの読んだら、勢いづいちゃうか。