佐藤文香のネオ歳時記

第13回「冬太(ふゆぶとり)」「冬季限定チョコレート」【冬】

「ダークマター」「ビットコイン」「線上降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・冬 分類・生活】
冬太(ふゆぶとり)
傍題 冬を太る

「夏痩(なつやせ)」という季語があるのに、「冬太(ふゆぶとり)」は、ない。冬の季語で「着膨(きぶくれ)」はあるが、これはたくさん着込んで大きくなることなので、脂肪を溜め込んだ天然肉襦袢とは別物だ。「冬籠(ふゆごもり)」「冬眠」も季語であることだし、このたび「冬太」も季語にしよう。ふつうに生きていると、冬は太る。ちなみに、動詞の連用形を名詞化した季語は、送り仮名を省く法則があり(別に省かないからといって間違いではない)、上記ふりがなを入れたもののほかにも「寒晴(かんばれ)」「秋の暮(あきのくれ)」なども「れ」はなくてよい。よって、あえて「冬太り」ではなく「冬太」としてみたが、「とうた」という名前っぽくなってしまった。金子兜太と冬が好きで俳句を始めた人みたいだ。
 17歳から30歳ごろまでの私は、基本的に夏体重+3kg=冬体重であり、1年のミニマム体重とマックス体重を比べると、4.5kgくらい違うことも珍しくなかった。3kg違うと1サイズ変わるので、半年ぶりくらいに会う人には「痩せた?」とか「ちょっとふっくらした?」とか言われることが多かった。とくにすごかったのは高校時代。冬場は3時間目と4時間目の間の10分の休み時間で持参した弁当を食べてしまい、4時間目が終わるやいなや購買にパンを買いに行っていた。購買のパンが美味しかったというよりは、購買のパンを買うということがなんとなくイケている気がしたのと、購買に来ている金髪のお兄さんがかっこよかったからである。さらに、帰宅してお菓子を食べ、夕飯もしっかり食べていた。その結果、高校の卒業式の写真は、アンパンマンの実写版みたいな顔で写っている。上京後も、毎週のようにインドカレー屋でナンを2枚食べていた冬があったり、つけ麺を食べたあとコンビニのアイスを食べるのを常にしていた冬があったりした。最近はさほど食べなくなったものの、代謝が落ちて夏場痩せなくなってしまい、ずっと冬体重のまま。しかも1月を過ぎてさらに太っている。なお、実家で雑煮などをたらふく食べて一時的に太る「正月太」は新年の季語でよいと思う。
 寒い時期に食べて脂肪を蓄えるのは、生き物として当たり前の行動といえる。しかし、ふっくらした動物たちはかわいいのに、自分はなぜかかわいくならない。いや、待てよ。もしかしたらかわいいのかもしれない。人間女性としてのかわいさではなく、動物として考えよう。カピバラと、コビトカバと、私。一番かわいい動物を選べ。(カピバラかな……)




〈例句〉
派手な花しやうがなく活け冬太  佐藤文香
うちの自慢の妻なり冬を太りたまふ